帝王ニクラスの城下町。メモリアルのコロンバス

DSC03515 - Copy

Courtesy from Nicklaus Companies

大統領夫人は、ファーストレデイ。それに対し、私はニクラス夫人バーバラを(First Fairway Lady)と呼ぶ。

今週の米ツアーは、メモリアル・トーナメント。米の戦没将兵記念日。そのタイミングで、ゴルフ界に貢献した功労者を顕彰。水曜午後にセレモニー。そしてコースの中にある、記念敷地に、顕彰者のコーナーを加えて行く。まさにゴルフの歴史館。ちなみに今年の顕彰者は、アニカ・ソレンスタム。それだけでなく、既に没した先達を3名、顕彰している。

1976年に産声を上げた、このトーナメント。第一回の顕彰者は、勿論のこと、ニクラスが尊敬する、ボビー・ジョーンズ。このトーナメントは、ゴルフ史を掘り起こすメモリアル(記念イベント)なのである。

ニクラスが生まれ育った町が、オハイオ州コロンバス。メモリアル・トーナメントが開催される都市。彼はOSU(オハイオ州立大)を2年で中退している。理由はバーバラと学生結婚。生活費を稼ぐ必要に迫られたため。日本人には信じ難いこと。だがOSUには、18ホールのゴルフ場が2つある。そのうちの一つ、スカーレット・コースは、アリスター・マッケンジーの最後の作品。ご存じの通り、マッケンジーは、オーガスタ・ナショナル、サイプレスポイント。そして豪州のロイヤル・メルボルン等。一級のコースを設計した。それ程の名手が、米では大学のコースまで手掛ける。コースのクオリティが高くて、当たり前なのだ。

日本のゴルフ部員は、ゴルフ場でキャディのバイトをし、その代わりに、無料でラウンド出来る。米国の場合、大学のコースだけで、ゴルフ場のランキングが作れるほど多数。恵まれた環境では、ニクラスの時代も、そして今もゴルフ部員たちは、大学のコースを無料で使える。加えて部員には、奨学金もある。

ニクラスは18歳で、全米オープン初出場。そしてOSUの2年だった1960年。最終日を首位でスタート。パーマーの逆転を許しはしたが、アマチュアで堂々2位に入っている。その様な才能も、これだけ恵まれた、環境があればこそだ。

パブリック・オープンしている。料金も廉価。この辺りを旅行した時は、是非立ち寄ることを勧めたい。そのOSUキャンパス内には、ニクラス博物館がある。煉瓦造りの大きな施設。中は幾つものコーナーに仕切られ、全米アマチュア選手権2勝。その後プロとして、四大タイトル18箇を掌中に収めた歴史。それらがぎっしり、詰め込まれていて満喫できる。また土産品のコーナーもある。品揃えは豊富。目移りさせられる。

当初この施設は、メモリアルの会場、ミュアフィールド・ビレッジGC内が、候補に上がっていた。ところが博物館は、連日多くの観客が訪れる。一方のミュアフィールド・ビレッジGCは、メンバー主体の、プライベートな施設。再度検討した結果、大学が敷地を、無料で提供することになった。期間は99年ごとの更新。歴史好きは「ハハーン」と気付くに違いない。

例えば、かつての大英帝国は、香港を租借した。その期間が99年。香港は返還されたが、ニクラス博物館は、99年が過ぎた時、契約は百%更新される。

余談だが、遠く1936年のベルリン五輪。この時、陸上短距離などで、4つの金メダルを獲得した、ジェシー・オーエンス。彼が学んだのもOSU。そんなことで、ニクラス博物館の隣の、陸上競技場は(ジェシー・オーエンス・フィールド)と名付けられている。

ところでニューヨークから、シカゴ、デトロイト。そして加州の大都市などには、ほぼ例外なくNFL(プロフットボール)とMLB(プロ野球)の球団がある。そんな米国で唯一の例外が、コロンバス。オハイオの州都。中西部を代表する大都市にも拘わらず、NFLもMLBのチームもない。必要ないのだ。

何故ならOSUが、強いフットボール、バスケットなどのチームを持っている。住民はその応援で、年間を通して楽しめるからだ。

昔ニクラスから、聞いた話。

「子供の頃、父親(チャーリー)に連れられよく観戦した、OSUのフットボール試合。そこで”何時かは、僕も”と、心に誓ったモノだった」と。日本語的な表現を使えば、そんなことで、コロンバスはOSUの城下町。帝王ニクラスは今も昔も、その象徴的な存在なのである。

此処に添付した写真は、今年の大学フットボール、全米一決定戦の時のもの。場所は加州パサディナのローズボウル。

ニクラスとバーバラには、豪気なことに、孫が22人いる。そのうちの一人は、ニック・オレアリイ。彼が中心選手(ポジションはオフェンス・タイトエンド)のフロリダ州立大が優勝するのだが、その応援にジャックとバーバラたち、家族全員が自家用ジェット機(Air Bear)で、駆け付けた。その時の一コマ。

勿論これは私が撮影したモノでなく、ニクラスの会社から、送られてきた中の一枚。決して大柄ではないが、ニクラスの身長は178センチ。その帝王が、これほど小さく見える。何故なら孫のニックは、身長が195センチ、体重は245ポンドもある巨漢だからだ。それより何より、「この子は私の孫よ」と言わんばかりの、バーバラのこの表情。22人の孫に対する(First Fairway Lady)の、たっぷりの愛情が溢れ、何とも微笑ましい。

22人の何人もが、いま開催されているメモリアル・トーナメントで、裏方を務めているはずである。

Duke Ishikawa