全米オープン、Daily feeコースへの転換期

 シアトルが本拠のNFLチーム、シーホークス。昨年のスーパーボウルを制した。その時のトロフィーと、今年誰かが手にする、全米オープンの優勝杯が並ぶ、チェンバース湾コース。スポーツ愛好者にとっては豪華だ(courtey of USGA)

シアトルが本拠のNFLチーム、シーホークス。昨年のスーパーボウルを制した。その時のトロフィーと、今年誰かが手にする、全米オープンの優勝杯が並ぶ、チェンバース湾コース。スポーツ愛好者にとっては豪華だ(courtey of USGA)

連休が明ければ、ゴルフ愛好者の関心は、6月の全米オープン。

今年の会場は、ワシントン州シアトル郊外の、チェンバース湾コース。期日は18日からの4日間。多くの日本人には、聞き慣れない名前。それもそのはず。数年前にオープンした新設コース。設計者は名手、トレント・ジョーンズ・ジュニア。

そればかりか、かつての砂利採掘場を、廃物利用したゴルフ場。従って海に面した、なだらかな丘陵地。その素材を、米国特有のスタジアム型コースとして、誕生させたもの。さらに特筆されること。それは所有運営が市。従って誰でもプレー可能な公営の施設。それを昨今、米では日銭で稼ぐ施設、Daily feeコースと表現する。

全米オープンが産声を上げたのは、19世紀の末1895年。当初はボストン、ニューヨークからシカゴ迄。伝統あるカントリークラブを巡回していた。一大変化が起きたのが2002年。それ迄の仕来りを破り、ニューヨークの州営コース、ベスページで開催されたのだ。

時あたかもタイガーの登場で、ゴルフの大衆化が、急速に進んでいた。ちなみにこの時の優勝者は、タイガーだった。

ドナルド・ロスやティリングハスト達の設計は素晴らしい。とは言え約一世紀前のコース。グリーンは砲台が多く、観客は爪先立ちが必要になる。チェンバース湾コースは、その辺りへの配慮が十分。観戦の邪魔になる、樹木は殆どなし。従ってより多くの観客が、ゆったり観戦できる。

全米オープン開催コースの、ラインアップは下記。

2016年 オークモントCC。2017年 Erin Hill GC。2018年シネコックヒルズ。2019年 ペブルビーチ。

この中でErin Hillsは、五大湖に面した北国ウイスコンシン州。これも新設のDaily feeコース。

この動きには、2つの目的がある。スタジアム型で、より多くの観客を収容する。もう一つは幾らでも距離を伸ばせること。数年前Erin Hillsでの全米アマチュア選手権。この時の全長は、約7500ヤードだった。その時USGAの関係者は「八千ヤードの時代にも、対応できる準備が必要」と本気で説明していた。

世界のゴルフは、いまそこまで急変している。それを支える新時代の表現。それがDaily feeコースなのだ。

歴史の長さは違うが、ペブルビーチも、言わばDaily feeコース。あそこの場合、プレー代金は五百ドル。それに百ドルのキャデイフィと、ほぼ同額のチップ。合計7百ドルが必要。

それでも天下の有名コース。そこでは繰り返し、全米オープンが開催されている。だから全米はおろか、世界中のゴルファーが憧れる。

ペブルビーチの値段の高さは、それだけではない。ペブルビーチは基本的に、ロッジの宿泊客を対象にしたゴルフ施設。その値段は、コースに面したスイートだと千二百ドルはする。「それでも「一年先まで、予約が埋まっている」と言う。

ちなみに全米一万八千ゴルフ場。その6割以上は、メンバーでなくとも、プレー出来るコース。いまそれを牽引しているのが
Daily feeのシステムなのだ。

(April.27.2015)

帝王のエースで、22人の孫の一人に脚光

ホールインワンのボールを、お爺ちゃんと一緒に持つ、緊張気味のスティービー

ホールインワンのボールを、お爺ちゃんと一緒に持つ、緊張気味のスティービー

ニクラスの口癖。それは「私の生涯最良の友は、亡き父チャーリーだった」。

こよなく家族を大切にする。その一つの現れが、子供、孫の多さ。いま孫の数は22人に達する。数が多いだけではない、時間がある時には、可能な限り複数の孫と、纏めて遊ぶ。

その22人にとって、大きな楽しみ。それは4月。マスターズ水曜午後の、名物パー3コンテストで、偉大なお爺ちゃんの、キャデイを出来ること。デソト池を一周する、パー3の9ホール。ここに鈴なりの観客が集まり、熱狂する。

主役は勿論、メジャー18勝のお爺ちゃん。とは言えキャデイも、お零れが頂戴できる。ただし孫の数は22人。順番は一度しか、巡ってこない。その様な状況で、孫の一人スティービーが、万馬券を引き当てた。其れがお爺ちゃんのホールインワン。観客からの祝福。報道カメラからの、写真撮影の注文。人生経験の短い、15歳高校生には、めまぐるし過ぎる、水曜午後だった。

パー3コンテストで使用したボール、グローブ、キャデイのゼッケンなど。これらは目下引く手あまた。世界ゴルフ殿堂か。其れともオハイオの、ニクラス記念館に落ち着くのか

パー3コンテストで使用したボール、グローブ、キャデイのゼッケンなど。これらは目下引く手あまた。世界ゴルフ殿堂か。其れともオハイオの、ニクラス記念館に落ち着くのか

スティービーの父親は、ニクラスの次男スティーブ。息子4人の中で、ただ一人ゴルフでなく、フットボールを選んだ。ただしプロのレベルには、到達できなかった。

そのスティーブに代わり、いまフットボールで脚光を浴びているのが、孫の一人ニック・オレアリー。長女ナンの息子は、何と196センチ、244ポンドの巨漢なのだ。フロリダ州立大フットボール部の、看板選手。

フロリダ州立大は、昨年、今年と連続して、全米学生一決定戦に進出。そのうち昨年は、加州パサディナでのローズボウル。この時は巨大な自家用ジェット機Air Bearで、一族郎党がフロリダから、大挙応援に駆け付けている。米大陸は東西約5千キロ。その距離を応援に行く。スケールのデッカイ話。

ニクラスの処は、このところ何しろお目出た続き。まず奥さんバーバラが、ボブ・ジョーンズ賞を贈られた。これはUSGA(米国ゴルフ協会)最高の名誉ある賞。ニクラス自身も受賞しており、夫婦でのダブル受賞は史上初。

追っ掛けるようにして、ニクラスが3月24日。議会金メダルを受け、午後3時から連邦議会でスピーチをしている。その何年も前に、大統領金メダルも受けている。

マスターズのチャンピオンズ・ディナー。中央の委員長を挟み、右にニクラス、プレーヤー。左にバッバを挟んでパーマー。今年のホストは、恒例前年(2014年)優勝の、バッバだった

マスターズのチャンピオンズ・ディナー。中央の委員長を挟み、右にニクラス、プレーヤー。左にバッバを挟んでパーマー。今年のホストは、恒例前年(2014年)優勝の、バッバだった

そして4月8日。マスターズのパー3コンテストで、達成したホールインワン。その時思いも掛けず、巨大な注目を浴びた22人孫の一人、15歳のスティービー。若い彼にとっては、恐らく盆と正月が一緒に来たような、目まぐるしさだったはず。其れでも祖父母(ニクラスとバーバラ)両親の躾の賜物。スティービーは非常に、落ち着いて対応していた。

これがニクラスが言う「生涯最良の友は、亡き父チャーリーだった」から、受け継がれている、帝王一家の伝統なのだ。

誰も彼も、真似のできることではないが、バーバラは5人の子供と、22人の孫をTeam Nicklausと呼ぶ。今回のパー3コンテストでの快挙。これも家族の幸運を、多くの人々に祝福される、モノだった。(April.20.2015)

子供達への、オーガスタの解放。今年も..

マスターズ直前の、オーガスタに集合した、ファイナリストたち。肌の色の違う子も堂々としている。彼を含め何人もの子が、ネクタイ上着を着用している。世界的なプライベートクラブ、オーガスタを訪れることは、それ程緊張することなのだ。後列中央が、オーガスタの委員長。下の写真は、各年齢の優勝者

マスターズ直前の、オーガスタに集合した、ファイナリストたち。肌の色の違う子も堂々としている。彼を含め何人もの子が、ネクタイ上着を着用している。世界的なプライベートクラブ、オーガスタを訪れることは、それ程緊張することなのだ。後列中央が、オーガスタの委員長。下の写真は、各年齢の優勝者

21歳スピースが、ぶっちぎった4日間。その陰で85歳パーマー。彼がパー3コンテストの舞台から降りた。早朝にも拘わらず、万余の観客を集めた、木曜朝の始球式。これも今年が最後になるはず。一つの時代の終焉。時代を築いた男への惜別。だが心配は無用。パーマーを後継する、若者は続いている。

Masters Weeksが、開幕する前日だから、5日のこと。全米各地の予選を勝ち抜いた子供達が、オーガスタ・ナショナルGCに、集まっていた。それがこの2枚の写真。昨年スタートした「ドライブ、チップ、パット」競技。この決勝戦。オーガスタ・ナショナルばかりか、USGA、PGAオブ・アメリカが協力しての、普及を目的とした仕掛け。

それより前に、大きな実績を創ったThe First Tee Program。この続編と思えばよい。それが「ドライブ、チップ、パット」。遠くへボールを飛ばし、狙ったところへ寄せる。そしてカップに沈める。ゴルフと言うより、子供の遊びの原点。

dcp15_1442_winners 然も新しい試みと、多くが感心させられる。ところが然に非ず。子供を中心とした初心者。彼らをゴルフへ引っ張り出す上で、この程度のこと、ずっと昔から、行われていたのだ。

私の記事に、繰り返し登場するルディ・デュラン。タイガーを4歳から10歳まで、指導した教え上手。彼は加州中部で、2つのゴルフ場を所有運営。其処を中心に実施している指導。それがドライブ、チップ、パットそのものなのだ。ただし順序は逆になる。

ルディは近所の子供を、まず練習グリーンへ集める。其処でボールとパターを与え、3メートルの距離を、2パットで収める遊びをさせる。子供たちは、直ぐに憶える。それが出来た子には、名刺サイズの、会員証を渡す。全員が貰える。

名馬の産地ケンタッキー州を代表する牧草ブルーグラス。子供達は、放課後ここで、夕食時までタップリ遊ぶ

名馬の産地ケンタッキー州を代表する牧草ブルーグラス。子供達は、放課後ここで、夕食時までタップリ遊ぶ

続いてグリーンの外からチップし、それを1パットで収める遊び。これも簡単にクリアする。その子には異なるカードを渡す。色がオレンジに変わり、このカードの所有者は、練習場のボールが、無料になるなど、上達への環境が、徐々に整えられる。

そのカードの色が、緑に変わる頃。子供達はコースへ出るのが、待ちきれなくなる。

その一つの形が、マスターズ直前のオーガスタで行われた「ドライブ、チップ、パット」のファイナルだった。これはいまや、全米規模で実施されている。

Huntertown Blue Team - SNAG After-School. It's Masters Week! 1 別の2枚の写真。これはダービーで有名な、ケンタッキーの光景。草は芝でなく牧草。奧にサッカーか、アメラグのゴールが見える。寒い冬が去れば、子供達は放って於いても屋外へ飛び出す。その中に棒切れで、小さなバールを打つ遊びが加わる。取り立ててゴルフの格好をさせない周囲。それが何とも、心を豊かにする。

この写真の送り主は、結婚前Myra Van Hoosでツアー活動。その後母校ケンタッキー大監督として、多くの後進を育ててきた。

マスターズが終われば、春は北米大陸全域に広がる。其処ではケンタッキーダービー、インディ500。そしてニクラス主催の、メモリアル・トーナメント等、スポーツイベントが続く。

パーマーは去ったが、ゴルフ界の後継人材は、この様な形で、次々育っている。ルディやMyraの地道な指導。そして小中学生に、オーガスタ・ナショナルを開放する動き迄。日本が本気で、見習うべき部分だ。

(April.13.2015)

日本企業の、海外競技への関心と背景

 左から3人目が、男女合わせ最多88勝のキャシー・ウイットワース。5人目がソレンスタム。10人目ほぼ中央が、女子プロゴルフの歴史を、劇的に書き換えたナンシー・ロペス。右端のブラッドリーは、1986年四大タイトルのうちの、三つを獲得した(All photos made by Gabriel Roux)

左から3人目が、男女合わせ最多88勝のキャシー・ウイットワース。5人目がソレンスタム。10人目ほぼ中央が、女子プロゴルフの歴史を、劇的に書き換えたナンシー・ロペス。右端のブラッドリーは、1986年四大タイトルのうちの、三つを獲得した(All photos made by Gabriel Roux)

1972年に産声を上げた時の名称。それはダイナ・ショア招待。カネを出したのはコルゲート。デビッド・フォスターが経営トップだった。狙いは女子のマスターズ。選んだ舞台が、加州の人気避寒地、パームスプリングス。時代の先取り。夢があった。

その後ナビスコが、スポンサーシップを受け継ぐ。そして今回名乗りを上げたのが、日本企業ANA。

英語のHonorの意味は、言うまでもなく名誉。戦いでの戦死から、スポーツ競技での勝利まで。人間には,常にこの言葉が付いて回る。第一回のダイナ・ショア以来、半世紀近い歴史。其処で数多くの勝者が誕生した。

新しい冠スポンサーを迎えた、女子のメジャー第一戦は、ANA inspiration。洒落たネーミングだ。トーナメントの週初め。歴代優勝者22人が集合しての、ディナーが催されている。昔風の表現をすると晩餐会。ここに招待された22人は、まさに(招待される名誉)の持ち主ばかり。

_HRC9528長く取材している私には、懐かしい顔の勢揃い。キャシー・ウイットワース、サンドラ・パーマー、ドナ・カポーニ。さらに数世代若返ってナンシー・ロペスから、アニカ・ソレンスタム迄。まさに女子ゴルフの歴史を、凝縮する華やかさだった。

ANAの投資目的は、タイトルスポンサーだけではない。さらに大きなインパクト。それは米女子プロの、公式エアラインとしての契約だ。これだけの歴史を、日本企業ANAは掌中に収めた。買い物としては、決して高いモノではない。

米のプロスポーツは、ビジネス面で凌ぎを削る。それにフットボール、バスケなど、カレッジの人気スポーツが肉薄する。その過激な競争の中。残念ながらゴルフの女子プロは、ビジネスの規模を、大きく落としている。

RUX_7626捨てる神あれば、拾う神があるモノ。その女子プロゴルフ。いまアジアでしぶとく生き残っている。シーズン初め。そして秋。米女子プロのご一行は、年に二度広い太平洋を往復する。ANAはそれを見越し、オフィシャル航空としての契約を結んだ。昨年11月のことだった。

そして先週。新しい看板でのトーナメントと、それに先立つ晩餐会が行われたもの。関係者の印象は頗る良好。「有り難うANA」の声があちこちで。一方で次のような声が、小さくなかった。

「いまや日本企業は、国内プロゴルフへの関心を失い、その分海外イベントに、カネを出す。宣伝効果として、国内のイベントは、投資するに値しないからです」。

最大の理由。それは社会から,見捨てられ続ける粗末さ。一つの現れが、観客とテレビ視聴率の、二重の落ち込み。それを産んでいるのは、プロの能力だけではない。中に入る代理店の多過ぎる取り分。従って「そんなところへカネを出せるか」と言う反発にも繋がるのだ。

スポーツショーとしての顕示。それを社会に還元させる考え。米女子プロの、今季メジャー第一戦が見せた、冠スポンサーとしての、日本企業の姿勢。それは日本男子プロへの、警鐘そのものだった。

晩餐会に集まった22人の歴代勝者は、全員が歴史の先頭を走ってきた。髪が白くなっても、彼女達が樹立した名誉は、際立っていた。

(April.06.2015)