時代の要請。ニクラス12ホールコースに本腰

人生ズーッと赤絨毯の上を歩いて来た男が、理想とする12ホールのコース造成の現場で、シャベルを持つ。帝王ニクラスの日常は、まさに八面六臂と言える(Photos coutesy of Nicklaus Companies)

人生ズーッと赤絨毯の上を歩いて来た男が、理想とする12ホールのコース造成の現場で、シャベルを持つ。帝王ニクラスの日常は、まさに八面六臂と言える(Photos coutesy of Nicklaus Companies)

ニクラスの本拠地は、フロリダ州南部の、ノースパームビーチ。全米オープンを挟んだ約十日間で、日本、中国など海外3カ国。米では6つの州を移動。ビジネスを展開している。フロリダから中国までだから、直線にしても、地球を半周するに等しい距離になる。

最初の数日は、全米オープンの、チェンバース湾コース。そしてニクラスが自家用ジェット機を、最後に駐めたところは、米の西部ユタだった。

トレビノ、アーウイン達、多くのトッププロと、出会ってきた。彼らも才能は、半端でない豊かさ。だがニクラスのそれは、桁違いなのだ。自分がプレーするだけではない。メモリアル・トーナメントを立ち上げた、発想とエネルギー。その後彼は、ケイマンボールの必要性も、話題として世間に送り出した。例の飛ばないボール。

そしてここ何年も、ニクラスが本気で、取り組んできたのが、2時間半で終了する、12ホールのゴルフ。子供や高齢者には、カップのサイズも大きくする。その考えを加えた。ケイマンボールから、この12ホールのゴルフ迄。そこでニクラスが、脳裏に描いているのは、時代の先取りなのだ。

18個ものメジャータイトルを獲ったプロが、そこ迄多岐にわたり、才能を見せる。脱帽させられるだけだ。

ユタ州の施設は、ニクラスに言わせると「12ホールの、ショートコース。またはゴルフ公園」。開場は来年春か初夏。それより前全米オープン期間中に、ニクラスが請け負った仕事。それは身体に損傷を負った退役軍人の為の、特殊なコース。ニクラスの設計料は高い。そのニクラスが、ここでは1ドルも受けず、総て奉仕で請け負った。

それぞれ身体に損傷を負った退役軍人が、ニクラスの話に真剣に耳を傾ける。これは全米オープンの週に、撮影したもの。いまニクラスは、紛れもなく、ゴルフを通した”米国の偉大なオヤジ”だ

それぞれ身体に損傷を負った退役軍人が、ニクラスの話に真剣に耳を傾ける。これは全米オープンの週に、撮影したもの。いまニクラスは、紛れもなく、ゴルフを通した”米国の偉大なオヤジ”だ

同様に、高が12ホールの、ゴルフ公園。そのコース設計を、ニクラスが受ける。自家用ジェット機で出掛け、採算が取れるのか。俄には信じ難いこと。だが、これが時代を読む、ニクラスの感性なのだ。

「16世紀から、プレーされてきた」と言われる、オールドコースでのゴルフ。日本語では、ゴルフの聖地。英語ではHome of Golf。そこには蛸壺バンカーや、一日に四季があると言われる天候。それらに耐え18ホールを、ラウンドする全英オープン。

その一方で戦後70年。遊びは世界的に、多様化している。そんな時代に、チャンピオンシップのゴルフはさておき、大衆が遊ぶゴルフで4時間は長すぎる。それがニクラスの判断。そこで普及に熱意を傾けているのが、2時間半で終了できる、12ホールのゴルフなのだ。

同じ状況は、日本でも顕著だ。子供達の時間割はタイト。塾通いやお稽古事。そんな中他のスポーツ。例えばサッカーや野球は、一つのゲームが、1時間半から2時間。それに比べ、ゴルフは(現状では)丸一日がかり。ニクラスは、早くからその部分に、着目して来たのだ。

ゴルフには、異なる二つの顔がある。全米オープン等に、代表されるチャンピオンシップ。もう一つは世界95%以上の、愛好者が楽しむゴルフ。

メジャータイトル18個。地球上で約四百の、チャンピオンシップコースを、設計してきた帝王が、いま12ホールのコース設計に、本腰を入れ始めた。

(June.29.20159)

米国の夢。21歳で奨学金を、出す側になるスピース

日本の遼や松山より若い21歳で、メジャー2試合とも頂点に立ったスピース(courtesy of Global Golf Post)

日本の遼や松山より若い21歳で、メジャー2試合とも頂点に立ったスピース(courtesy of Global Golf Post)

ビル・ハフマンは、アリゾナのゴルフ界、マスコミを牛耳る、長い間の知己。自信家だけに、言葉の端々に強い表現が顔を出す。

金曜日の遣り取り。「盲目的な愛国者ではない。それでもスピースが勝てば、米のゴルフ界は、巨大な熱狂に包まれる。是非とも勝って欲しい」。

さらに付け加えた。

「世界ランクがどうであれ、マスターズに続くメジャー連勝。それが実現したら、現時点でスピースは、疑うことなく世界のナンバーワンだ」。

最終72ホール目のバーディで、ハフマンの(盲目的愛国者の期待)に応えたスピース。彼はまだ21歳。地元ダラスの競技、バイロン・ネルソンに高校生で出場。二年続けて十位前後に留まる活躍を見せたのは、ほんの数年前のこと。その若者が、メジャーを連取し、いま奨学金を出す側に回ると言う。何と夢のある話か。

4月のマスターズに続き、全米オープンでも優勝。数十年ぶりで、グランドスラムが話題になる。だが其れでも世界ランクの一位はマキロイ。スピースは2位。ハフマンが強調するのはこの部分。世界ランクに関係なく、この時点の世界最強は、スピースとの持論。

何れにしろ大きな夢。それを7月の全英まで繋いだスピース。その21歳が驚くことに、奨学金を出す側に回って居る。そんな話が北部テキサスPGAから、このほど届いた。

目下ダントツの賞金ランク。

賞金だけでなく、スポンサー企業との契約金の額も膨大。それらはジョーダン・スピース家族基金として運用されている。

その一部を奨学金として活用する。その話だ。今回の受賞者は2人。ただしこれはスピース家族基金が、直接動くことではない。

米は日本の25倍の大きさ。従ってビジネスやスポーツ組織も、州単位での活動が目立つ。中でもテキサスは広大。そのため南部と北部で別々の行動をする。

ジョーダンが住むのは、北部のダラス。そこでゴルフを中心に、活動する組織が北部テキサスPGA。その中の一つのセクション、ジュニアゴルフ基金が代行し、受賞者の選考から、表彰式までを取り仕切る。

それにしても成功者とは言え、未だ21歳の若者。彼が奨学金を出す側に立つ。この柔軟性。カネが活かされて、遣われていることが判る。

もちろん宗教的な伝統もあるはず。寄付行為に対する、減税など社会システムの違い。これも大きいに違いない。何れにしろ2015年の受賞者は、男女の若者2人。「選考の基準は文武両道。学ぶ身として、オールラウンドの能力。それを評価した」と、北部テキサスPGAの担当者は話している。

この中から、第二のスピースが誕生する。期待は大きい。

(June.22.2015)

初優勝リングマースに見た、足許の安定

優勝する様なトッププロは、スイング中の足の動きが、頗る静か。シューズの中で、10本の指を含む、足底が地面をしっかり、捉まえていることが分かる。

優勝する様なトッププロは、スイング中の足の動きが、頗る静か。シューズの中で、10本の指を含む、足底が地面をしっかり、捉まえていることが分かる。

私は時に、一日に2つのコースをラウンドして来た。米国ならファイアストンで朝7時スタート。11時終了と同時に、チーズバーガーと清涼飲料水を手に2時間のドライブ。午後はコロンバスの、ミュアフィールド・ビレッジGC。

英国ではウエールズとイングランドで、2つのコースの組み合わせ。そして翌朝、成田行きの便に乗る前、もう一つのコースで18ホール回る。米は乗用カートに頼れるが、英はまず担いでの歩き。ラウンドしながらの、写真撮影が目的だけに、歩く距離は長い。頼りは足許。幸運なことに私は、長いことFJのシューズを使用してきた。

先々週のメモリアル。帝王ニクラスのトーナメントで、米ツアー初優勝を飾った、スウェーデン人、デビッド・リングマス。彼の足許に注目させられた。

ロリ・マキロイたち若い世代は、カラフルなスポーティタイプが目立つ。そんな時代にリングマスのシューズは、違って見えた。昔スタイルの黒。「これなら当然、靴底も昔風」と直感。訳を知りたくなり、早速アクシネットジャパンに問い合わせた。答えてくれたのは、JFフットジョイの斎藤政則部長。

「それは、今後展開予定のJFフットジョイ。そのアイコンシリーズのプロトタイプです」。

斎藤部長の話に依ると「使用モデルに関しては、プロの自由選択に任せます。制約は一切設けていません」そうだ。

「プロはスイング時の安定性。履いた時のソフト感などでセレクトします」。

その中で、プロ個人の個性と好みが、生かされることになる。

476293138_David_Lingmerth_503x720_72_RGB 「その一つがクラシックなタイプ(FJアイコン)。次いでアダム・スコットが愛用のドライジョイタイプ。さらにハンター・メーハン達のスポーティタイプ。大別するとこの三つですね」と、前出の斎藤さん。

クラブ、ボールからシューズ、グローブ迄、トップメーカーが、重視するのはR&D。リサーチと開発。プロアマを問わず、そこから上がる膨大なデータを基に、求められる性能とデザイン性を重視して、商品ラインの開発を進めて行きます」。

今週18日に開幕する全米オープン。ここシアトル郊外のチェンバース湾コースは、恰もスコットランドの、デューンズを彷彿させる、開場8年の新設。全体に大きなうねりが多いことで、見応えのある戦いが、期待される。

その全米オープンでも、使用用具の比率が発表される。その中でタイトリストのボールとともに、FJのシューズとグローブは圧倒的。例年6割から7割に近い使用率を占める。

日本も含め、世界には実に多くのメーカーが鎬を削る。その中で約三分の二が使用する用具。それもメジャーの舞台で。これだけ市場の信頼を得る。それを支えるのは、紛れもなく集める情報の豊かさと、それに裏打ちされた、開発力と言える。

ナショナル選手権の開催目的。それは優秀な競技者を育てる。一方でメーカー同士の競争力を、高めること。それを教えてくれるデータだ。

(June.15.2015)

誇りがあるなら、タイガーは引退すべきだ

 85を叩いたことで、第3ラウンドの順位は、奇数の71位。1997年のプロ入り以来、朝一番での独りラウンドを、初めて体験した(coutesy of The Memorial Tournament)

85を叩いたことで、第3ラウンドの順位は、奇数の71位。1997年のプロ入り以来、朝一番での独りラウンドを、初めて体験した(coutesy of The Memorial Tournament)

僅か5ヶ月の間に、自己ワーストを二度も書き換える。前回は82。並みのプロではない。天下のタイガー・ウッズだ。

メモリアルの土曜日。さらに悪い85を打った。ニクラスがホストを務めるこの競技。タイガーは過去5度優勝している。得意中の得意なコース。そこで自己最悪スコアを更新。それも2つのダブルに加え、18番ではquadrupleの8。5つのボギーも多過ぎる。だが一ホールで8を叩く。これは、既にタイガーのゴルフではない。他に置き換えれば、かつての王、長嶋が、打率一割台に低迷したに似る。ここ迄劣化したら、残された道は唯一つ。それはツアーから引退すること。その場合39歳の年齢は関係ない。

今年の全英オープンは、セントアンドルーズのオールドコース。16世紀からゴルフがプレーされたと、伝えられる。いわゆるゴルフの聖地。タイガーのメジャータイトル数は14。そのうちの3つは全英オープンでのもの。それらは2000年、05年、06年の連覇もある。然も2000年と05年は、共にオールドコースだった。タイガーにとっては、得意であり思い出も、タップリ詰まったコース。そこを最後の舞台にする。

既に離婚している。とは言え、2人の子供を儲けた、スウェーデン人の奥さんエリン。彼女と出会ったのもこの頃オールドコース。エレンはパーネビック家族の、ベビーシッターとして一週間を過ごす。そこでで口説き始めたもの。パーネビックの3人の娘は、既に金髪を靡かせる、美しい女性に成長している。

時の流れは早い。その間にタイガーは、とんでもない女狂いが暴露される。トーナメントの合間に、全米の女性百人の尻を追っ掛ける狂乱。ニューヨークで、そしてベガスで。彼のように自家用ジェット機があれば、広大な米大陸の移動も簡単。我々が都内を、タクシーで異動するに等しいこと。

セラピストの世話になり、トーナメント出場を自粛。エリンとは離婚し、推定数百億円の慰謝料を払う羽目に。それでも好成績が続けば、ツアープロだから何とかなる。

スキャンダルが発覚したのは、2009年11月末。感謝祭の週末だった。それから成績は急降下。更新目前だった、米ツアーの最多勝記録〔82勝)も79で足踏みしたまま。かつて自分の定位置だった世界ランク一位。それも172位まで落ちた。

タイガーを幼児の頃から知るスティーブ・クック。私の編集担当プロが、次のように説明する。

「プロとしての年齢が、実年齢より大幅に老けたことは否定しない。特に技術的に」と前置き。「醜聞に見舞われたことで、性格が頑なになった。技術とともに、精神面での引き出しの中身が、急速に少なくなった原因は、そこに在る」。

ジャック・ニクラスはいま75歳。メモリアルのホスト。世界中でのコース設計。そして社会奉仕。多忙な日々を過ごしている。

十数年前、仕事の打ち合わせでロサンゼルスで会った。その時、開口一番「デューク、私はもうマスターズには出場しない。数週前オーガスタで80を打った。それも白ティから。如何なる状況でも、80を打つゴルフは、観客に見せるものではない」。それが理由であり、帝王ニクラスの誇りだった。

タイガーは、ジョーンズ、ニクラスに並び、過去百年の三強の一人。その男が、5ヶ月の間に、80台を二度も叩いた。身を引くに、充分な決断と言える。

(June.8th.2015)

 

お嬢さん方、マキロイは売り切れました

 マキロイは常に、ニクラスに目を掛けられている。昨年のライダーカップから(Photo coutesy of Nicklaus Companies)

マキロイは常に、ニクラスに目を掛けられている。昨年のライダーカップから(Photo coutesy of Nicklaus Companies)

Sorry Ladies,Rory McIlroy is officially off the market。

英語の表現は、何時ものことながら微笑ましい。郷里でのアイルランド・オープン。2019年には全英オープンが、アイルランドで開催される。その前哨戦とも言えるトーナメント。運営責任はマキロイ基金。

メジャー四勝の26歳は、世の中での役割が、どんどん多く大きくなる。そして今季も前半絶好調。世界マッチプレー選手権。そしてWells Fargoで、共に圧勝。ことに後者の3日目、難コース、クエールフォローで61の、ビッグスコアを叩き出している。

BMWPGAは欧州ツアーの旗艦トーナメント。舞台は本部のある、ロンドン郊外ウエントワース。一年前マキロイはここで、最終日大捲りの優勝。その直後キャロライン・ウオズニアッキとの、結婚式の招待状を発送している。尤もその結婚は破局する。だがめげることなく、昨夏後半2つのメジャータイトルを連取した。

そのウエントワースで今年は36ホール落ち。その時のコメントは「ガス欠の状態で、走り続けすぎた」。確かにそうだった。ところが先週のアイルランド・オープンでは、第一ラウンド、バーディ無しの80を叩く。僅か数週前61を叩き出した、同一競技者が、9オーバーと乱れた。マキロイと言えども、生身の体。ゴルフの持つ面白みが伝わる。

会場ロイヤル・カウンティダウンはこの日も雨。然し長靴傘姿の地元ギャラリーが、競技を去るマキロイに、大きな拍手を贈っている。そんなマキロイに「お嬢さん方、彼は売り切れましたよ」との標題が出る。雨の上がった最終日。マキロイが長い金髪の女性と、手を握ってコースに現れたためだ。

「新しい友達です。会って3年になります。彼女は米人。ゴルフはしませんがゴルフへの理解はあります。いまボクは非常に幸せです」とマキロイ。

彼女の名前はエリカ・ストール。マキロイより3つ上の29歳。勤務先は米フロリダの、米プロゴルフ協会。言わば職場恋愛みたいなもの。それにしてもナイキ他との契約金。そして賞金を合わせれば、年間数十億円の稼ぎ。このまますんなり進行すれば、エリカは、大変な玉の輿になる可能性。

近付きの要因の一つは、マキロイが購入した、ヨットハーバー付きの豪邸が、米プロゴルフ協会の本部に近い事。そんなことで半年以上も前に、交際は始まっていたようだ。

それにしても、マキロイの2試合連続しての36ホール落ち。それでも最後を、大きな話題で締め括る。大した役者であることは間違いない。

とは言え「ガス欠状態で、走り続け過ぎたこの2週。それをこの先、何処まで早く回復できるか。

今季2つ目のメジャー競技、全米オープンは再来週だ。

(June.1st.2015)