男だけの世界だった260年。R&A女性会員受け入れ

R&Aのドウソン専務理事。今回の時代の変化。そのリーダーシップを取ったのが彼。その前112年ぶりの、ゴルフ五輪復帰を実現させたのも、彼の働きだった(both photos courtesy of R&A)

R&Aのドウソン専務理事。今回の時代の変化。そのリーダーシップを取ったのが彼。その前112年ぶりの、ゴルフ五輪復帰を実現させたのも、彼の働きだった(both photos courtesy of R&A)

歴史が変わる時とは、常に劇的だ。

9月18日(日本時間19日)英国で、2つの投票結果が、発表された。

一つはスコットランドの、英国からの独立に関する住民投票。これは、反対が55%を越えた。欧州産原油の60%を産出するのが、スコットランドの海底。更に世界の飲み助が愛飲する、スコッチウイスキー。それより何より、ゴルフ好きにとっての関心事。それはゴルフの全英オープン。遠く1860年プレストウイックで、産声を上げて以来、その多くが開催されてきたのは、スコットランド。そのスコットランドが、英国と分離するとしたら、厄介なことになる。

同じ18日。ゴルフの総本山、R&A(ロイヤル&エンシェント・ゴルフクラブ・セントアンドルーズ)では、260年目にしての、新しい試みが行われていた。それはクラブとしてのR&Aに、女性の会員を迎えるか否か。その選択だった。

そもそもゴルフクラブとは、男達だけのモノ。うるさい女房(失礼)から逃れ、男同士球を打ち酒を飲む場所。1975年初めて訪れたセントアンドルーズ。午後オールドコースでラウンドするのだが、その前。町で写真店を営む知人イアン・ジョイが、連れて行ってくれた先は、彼らのクラブだった。R&Aのクラブとは違う、センとアンドルーズ市内のビルの一階。私が連れて行かれ理由は、スタート前に昼食を摂るため。

ところが正午前だと言うのに、そこでは多くのメンバーが、スコッチやラガーグラス片手に、盛り上がっていた。西欧のクラブに関し、知識の浅かった私は「何だ、この人達は。午前中からアルコールを遣って?」。世界あちこちで、クラブの会員になった今では、当たり前のことと受け止められる。それにしても駆け出し記者には、驚きだった。ただし彼らはR&Aの会員である必要はない。

ゴルフが好き。だが度々出掛けることで、奥さんに遠慮がある。そう言う連中が、憂さ晴らしをする。言わば同好の士の集合場所。だからMembers Only。またはMen Only。たわいもないことなのだ。

それより何より日本でも、明治時代の政治で、女性に選挙権がなかった。それが歴史の中での、男女の立場だったのだ。R&Aとしても、260年もの歴史を持つだけに、18世紀の仕来りを引き摺って、当然だったと言える。

そして時代が変わった。ゴルフ界もそれに順応する必要。それが18日の開票だった。

投票の結果は「85%が、女性メンバー受け入れに賛成」だった。R&Aの専務理事、ピーター・ドウソンは、満面笑みを浮かべて語った。

同じ日、オールドコースの一番ティグラウンド。そこで行われた、R&A新キャプテンの、お披露目テショット。長年の伝統。今年も多くの市民が見守った。

同じ日、オールドコースの一番ティグラウンド。そこで行われた、R&A新キャプテンの、お披露目テショット。長年の伝統。今年も多くの市民が見守った。

「圧倒的な差に、誇りを感じている」。

遠い国の話。更に260年も昔(日本では宝暦4年。徳川十代家重の時代)に、発足したクラブ。それだけに、もう少し補足説明が、必要になる。そもそもR&AのAとは、Ancient。意味は昔のとか古代。オールドコースで、ボール(もしかしたら、石ころだったかも知れない)打ちが始まったのは、16世紀と言われている。それを強調する。その意味が、あったのかも知れない。

何れにしろR&Aは、1754年以来2世紀半以上。世界のゴルフ界をリードして来た。いまR&Aのメンバーは、世界中に約2400人。R&Aドウソン専務理事の話によると「そのうちの四分の三以上が投票。更にその85%以上が、賛成した」と言う。それでも、まだ十数%が「No」だったことは、意外なのだが。

そして今、刻の流れに応じ、男だけのプライベートクラブに、女性メンバーを加える決定をした。この事務的作業は、10月からになる。

同じように男だけのクラブだった、マスターズ会場の、オーガスタ・ナショナルGC。そこがアフリカ系男性に続き、2年前女性の会員を迎えた。その一人はライス元国務長官。現在スタンフォードの大学院教授だが、彼女もアフリカ系。時代はそこ迄、変化した。それがいまの21世紀なのだ。

ドウソン専務理事が、続ける。

「9月18日は、R&Aの歴史にとって、とてつもなく重要。そして前向きな記念日になった」。

日本人が知る、セントアンドルーズと言えば、オールドコース。とんでもないこと。スコットランドの首都エジンバラに近い、セントアンドルーズ。そこにはオールドコーストとは別に、更に7つのリンクスがある。リンクスとは、言う迄もなく、スコットランドでは、ゴルフ場の意味。そこでは既に、過去数十年多くの女性が、男性に混じり、または女性だけで、ゴルフを楽しんでいる。

その様な流れの中、女子のゴルフ選手権、全英女子オープンも、数年前ゴルフの聖地と言われる、オールドコースで開催された。

ゴルフは2016年。五輪種目に112年ぶりで復帰する。ニクラスたち多くの識者との共通の考え。それはゴルフの大衆化。そのための一つの方策。それは女性が、ゴルフを楽しむこと。何故なら、女性はお母さん。母親が愛好すれば、子供もゴルフに馴染む。それが理由だ。

英国のかつての名称は、大英帝国。航海術を駆使し、世界の七つの海を支配。地球上あらゆる処に、植民地を設けた。当時「大英帝国に、日の没する時ナシ」とさえ豪語したほど。その遺産が英連邦国家群。いま世界の外交ビジネス用語が英語。またゴルフが世界中に、普及した背景も、ここにある。

時を同じくして、オールドコースの、一番ティグラウンド。ここでは選ばれた、この先一年のR&Aキャプテン。彼のお披露目ティショットが行われている。例年通り、それを多くの、セントアンドルーズ市民が見守った。長年の伝統。それを残しながら、女性を会員に迎える。R&Aも、そしてゴルフ界そのものも、時代の変化に、しっかり対応している。

(Sep.22.2014)