26歳マキロイが、生涯グランドスラム達成に必要な、グリーンジャケット。マスターズの開幕は4月7日。舞台のオーガスタ・ナショナル。1997年から主役を張って来たのが、他ならぬタイガー。熊ならぬ虎が冬眠から、いま覚めつつある。
ご存じの通り、タイガーは昨年後半、二度続けて腰にメスを入れた。その前2014年3月30日。この時も医師は「競技ゴルフ迄に、百日の安静が必要」だった。二度処置した事は、昨年9月の一回目も、成功しなかったと言うこと。
その2度目から日数を数えると、ほぼ百日が過ぎた。代理人マーク・スタインバーグが「2月に入り、パッティングそしてチッピングを開始。ここ数日ウエッジ、そして9番アイアンも打ち始めた」と説明する。
2月24日。半ズボンのタイガーが、まず目の前の、デジタルスクリーンに向かって打つ。パー3ホール。ボールはホールに4.5メートルの、バーディチャンスに付いた。
前出スタインバーグンは「タイガーのファンには、期待が持てる状態」と付け加える。ただし問題はその先。具体的な復帰プログラムは、一切決まっていないことだ。それはそうだ。未だ短いアイアンを、手にし始めただけ。この先ドライバー迄。そしてコースでの実戦の勘を取り戻す。その道程は、決して短くない。
歴代勝者だから、タイガー、マスターズは何時でも出場できる。ただしタイガーとして、パトロンを魅了出来る。それだけのゴルフが出来るか否か。結論としては悲観的だ。
復帰への長い登り坂を歩く。彼を支えている男がいる。キャデイのジョー・ラカバだ。かつてジョーは、フレッド・カプルスのバッグを、任されていた。そのカプルスが50歳になった時、ジョーに声を掛けたのが、ダスティン・ジョンソンだった。
ルールの解釈違いで罰打。2010年全米プロの優勝は逃した。それでもツアー通算9勝の実力。190センチ超の派手な長距離砲。キャデイとしては、最高のプロ。それがダスティン。稼ぎにしても、年間数千万円は固い。
安定した数シーズン。そんなジョーに、新たな要請が来る。それがタイガーだった。
かつてタイガーのキャデイは、問題発言の多いスティーブ・ウイリアムズ。彼を切ったタイガーが、声を掛けて来たのだ。年齢的にはタイガーより9歳若いダスティン。この先安定した収入は、より長く続けられる可能性。それでもジョーは、即座にダスティンに相談している。
「タイガーと仕事が出来る。素晴らしいこと。僕にとってジョーは不可欠。でも諸手を挙げて送り出すよ」。
これがこの時の、2人の遣り取り。程なくして、タイガーとジョーのコンビは、始動する。然し優勝どころか、その後タイガーは、禄にトーナメント活動さえ出来ていない。その揚げ句昨秋の、二度の処置。
タイガーは数少ない、自家用ジェット機所有者のカネ持ち。成績が上がらなくとも、或る一定額の保証はあるはず。それは並みのキャデイよりは上。とは言え、まともな神経なら、腐って当然かも知れない。だがジョーは、そんな焦りを、微塵も見せず。タイガーの復帰プログラムに付き合い、4月第一週開幕のマスターズを、遠謀している。
(Feb.29th.2016)