世界との架け橋。一人の女性の葬儀に、プロゴルファーが溢れた

 

2020年五輪へ、先頭を走る、JOC竹田会長をはじめ、プロ協会の倉本会長。JGTO池田選手会長たちから、多くの供花(通路左側も)が届いて居た。国際舞台での故人の、広範な人間関係を、物語るモノだった

2020年五輪へ、先頭を走る、JOC竹田会長をはじめ、プロ協会の倉本会長。JGTO池田選手会長たちから、多くの供花(通路左側も)が届いて居た。国際舞台での故人の、広範な人間関係を、物語るモノだった

横浜の外人墓地にほど近い、丘の上の山の手教会(聖教会)。ここで執り行われた、一人の女性の通夜と葬儀告別式。千葉でのブリヂストン・オープンの週にも拘わらず、両日とも多くの関係者が参列。特にお通夜の21日は、練習ラウンドを終えたプロが挙って駆け付け、教会から、はみ出したほどだった。

亡くなったのはクリス・トモ(鞆)。未だ五十代の年齢。ポルトガル人の父親と日本人の母親。結婚前の名前はクリスティーナ・リッチー。急性白血病だった。

日本語以上に、英語が先に出る完璧なバイリンガル。その才能を生かし、米企業タイトリストに長いこと勤務。その後独立し、主に日本を主戦場にする外国人プロ(豪NZ米など)をマネジメント。亡くなった15日の週、開幕した米ツアー、Frys.com Open第一ラウンド。66で5位発進した、韓国のドンホワン。かつて彼は2年間の兵役を終えた翌日、即刻東京へ飛来。その先の活動に関し、クリスに相談。2年間のブランクを、短時間で乗り切っている。

3/11の後。息子と契約プロを帯同。子供達への沢山の土産を持参し、被災地を慰問している。

厳かな雰囲気で、葬儀を待つ早い時間の聖堂。喪主のご主人は、愛妻の早過ぎる死に、憔悴し切っていた

厳かな雰囲気で、葬儀を待つ早い時間の聖堂。喪主のご主人は、愛妻の早過ぎる死に、憔悴し切っていた

学んだ学校は、アメリカンスクール。部活は乗馬。その関係で、アン王女の元ご主人、Mark Pillips大尉とは、彼が乗馬競技で来日するたびに、アテンドするツーカーの間柄。英王室に窓口を持つ、数少ない日本の個人だった。

年齢は離れているが、JOC竹田恆和会長(日本馬術連盟副会長)は乗馬の出身。そんな繋がりで、竹田会長に対しては、英語の指南役だった。

ゴルフ、そして乗馬はじめ、多くの近代スポーツは、明治維新の前後、英独など欧州から伝わった。その道案内をした欧州人と日本人。彼らに求められたもの。それは言葉だった。数年前、全米オープンの国内予選を通過した、数人の日本人プロ。彼らがクリスに、通訳兼臨時のマネジャーを依頼。急遽米東部まで出掛けたこともあった。

言葉だけでなく、現地会場に顔の利く人間が居なければ、競技では著しく不利。そんな時、クリスは大きくサポートした。

それでも競技をするプロの様に、目立つことはない。だがクリスの様な存在がなければ、日本のゴルフは、ここ迄発展しなかった。

DSCN0004告別式で会った一人は、NZのデビッド・スメイル。「これほど残念で悔しいことはない」と、私の手を握った。かつての日本オープン勝者も四十代半ば。峠を越しているが、それでも先週のブリヂストン。土曜日を終えて、優勝戦線に加わっていた。マネジャーとして、そして親友として、長いこと付き合いのあったクリスに、好成績を捧げたい。その気持ちの現れだったことは、勿論だった。

20日の告別式。教会に溢れた関係者の中には、ゴルフだけでなく、乗馬を始め、多くの五輪関係者も目に付いた。過去数十年、歴史の中でクリスが果たした、世界への架け橋。その役割の大きさを、物語る参列者だった。合掌。

(Oct.26.2015)

時代の急変。高層ビル背景の、P杯テレビ中継

NBCのオープニングは、首都圏の高層ビルを背景に、ニクラスを迎えて始まった。左は解説者のジョニー・ミラー。新時代の幕開け。余談だがこの近くには、年間33万人の客で、賑わうゴルフ場もあるそうだ。プロ競技の舞台から、大衆ゴルファー迄、韓国の熱気は凄い

NBCのオープニングは、首都圏の高層ビルを背景に、ニクラスを迎えて始まった。左は解説者のジョニー・ミラー。新時代の幕開け。余談だがこの近くには、年間33万人の客で、賑わうゴルフ場もあるそうだ。プロ競技の舞台から、大衆ゴルファー迄、韓国の熱気は凄い

百年の時間は、あらゆるものを変革する。それは五輪も、ゴルフ場の概念も。

2020年を巡り、揉め続ける五輪はさておき、ゴルフのプレジデンツCupが行われた、韓国のジャック・ニクラスゴルフクラブ。この写真で一目瞭然。ここは古い概念を、見事に歴史の彼方へ追い遣った。

コースは東アジアのハブ空港インチョン国際空港の至近。雄大なフリーウエイの橋も、打球が届きそうな距離を走っている。これと似たコースは、ニューヨークの、湾岸エリアにも既に見られる。

百年前のゴルフは、カントリークラブだった。都市部で一週間働いた富裕層が、週末をゆっくり過ごす。そのためカントリークラブには、豪勢なクラブハウスとゴルフ、乗馬、プールばかりか、英国人の好きな狐狩りの森まで用意されていた。

その伝統は米でも受け継がれた。百十年前1905年の全米オープンは、歴史の町ボストン郊外の、マイオピア・ハントクラブのゴルフ場が舞台だった。ハントクラブとは、言わずもがな狐狩りのことである。

ゴルフを楽しむ大多数は、今でも大きな樹木でセパレートされたコース。其処でのプレーを好むはず。ただしビジネスになると、話が異なる。

特にトーナメントは、客を大勢集める必要がある。その時カントリークラブの概念は、マイナスに作用することになる。最大の要因はギャラリーにとっての足の便。

スポーツショーの欠かせぬ要因。その一つは動員する観客。ドームにしても電車を降りれば、そこは球場のゲート。だから毎試合4万からの観衆を呼び込める。それに比べカントリークラブへ到着する迄には、結構な時間を要する。往復で3時間とか4時間。道路の渋滞も加わる。

プレジデンツCupが開催された、ニクラスゴルフクラブ。この舞台背後に林立する、首都ソウル圏の高層ビル群が、輝いていた。歴史を否定することではないが、ゴルフのビジネスにとって、新しい発想の到来。それを伝えるものだった。

そのニクラス。地球上で三百余を設計し、その数は現在でも、年々増えている。彼は勝手に青写真を描いているわけではない。一つ各々依頼主の要望に、綿密に応える。その姿勢を崩していない。その一つの表現。それが韓国のニクラスゴルフクラブだったのだ。

四月のマスターズ。この一週間、観戦が終わると、広大な芝地の駐車場では、ピクニックが始まる。一年に一度会う、マスターズの友達との、再開を楽しんで。その間に道路の混雑も消える。

一週間で50万を超す、観客を集めるアリゾナのフェニックスオープン。この期間コース内に6、7つの巨大テントが出現。そこでは飲食をしながら、ナマ演奏とダンス、お喋りを、夜十時過ぎまで楽しめる。

日本人は殆ど知らないが、これがカントリークラブ的発想と決別した、ツアー競技ビジネスの、最前線なのだ。

(Oct.19.2015)

12番目の代表。ハース父息子が描いた、筋書き通りの結末

米の雑誌も、この父息子の感動場面を、表紙に持ってきた(Global Golf Post)

米の雑誌も、この父息子の感動場面を、表紙に持ってきた(Global Golf Post)

米のキャプテン、ジェイ・ハースには、ゴルフを受け継いだ息子が二人いる。長男がジェイ・ジュニア。今回プレジデンツCup代表に選ばれたビルは次男。

二人とも、父と同じウエイクフォレスト大に進学。同大ゴルフ部は、ジェイの実弟が監督。これ以上は求めようがない、環境に恵まれた。それでも父親と同じ道を、ジェイ・ジュニアは、歩めなかった。

土曜10日夜遅く届いた、シングルス12マッチの組み合わせを、私は長時間検討した。ライダーカップ共々、一週間の勝敗を分ける。それがシングルス12マッチ。私が国際チームで「勝ち」または「有利」としたのは、オストハイゼン、リー、バオデッチ、ラヒリ、デイ、グレイス、そしてベサンムン。

大舞台での、筋書き通りの勝利。ハース父息子にとって、生涯最良の日になった(PGATOUR.com提供)

大舞台での、筋書き通りの勝利。ハース父息子にとって、生涯最良の日になった(PGATOUR.com提供)

其処で3マッチ、悩んだ。一つは二人の豪州人エース。よもやデイが落とすことはあるまい。他方スコットの相手はファウラー。調子は落としていたが、勢いのある若手。読み違いは他にもあった。松山だ。相手のホームズ。格は松山が上。とは言えデッカイボールで、ガンガン攻めてくるタイプ。初対戦だけに危惧した。

ただし米の記者仲間は「松山の1アップ」が殆どだった。

国際チームのキャプテン、プライス。彼は最終12番目のマッチに、ベサンムンを投入した。唯一人の韓国代表。然もこれを最後に、2年間の兵役義務が待っている。韓国が舞台のプレジデンツCupで、これ以上の設定はない。その悲鳴とさえ言える熱狂に応える。米キャプテンは次男ビルを当ててきた。

熱狂の後の失望。スタンドを埋めた大観衆を前に、握手をする2人。右(白いウエア)は国際チームのプライス・キャプテン。彼の野望は、もう一歩の処で、届かなかった(Global Golf Post)

熱狂の後の失望。スタンドを埋めた大観衆を前に、握手をする2人。右(白いウエア)は国際チームのプライス・キャプテン。彼の野望は、もう一歩の処で、届かなかった(Global Golf Post)

この勝負、ベサンムン有利としたのは、私だけではなかった。米の記者たちも「1ダウン」または「2&1」で、ビルの負けを予想した。その結果私の予測では、12マッチ中、国際チームが7つ獲る。これは若しかしたら若しかする。

早速米のGlobal Golf Post 他に連絡を入れる。それを見た米の読者は「ハハーン。デュークはアジア人だから、身贔屓か」と返して来た。

プレジデンツCupの代表は、11人目と12人目が、キャプテンの推薦。其処へ米はミケルソンとビルを選んだ。キャプテン、ハースはその時から、この最も過酷な役回りを、自分の次男に遣らせる。その腹積もりが、出来ていたと推測していい。

劣勢に回った最終日。その中18番のイーグルで追い付きHALVED。4日間5マッチ、不敗undefeatedを成し遂げた男の顔に、達成感と誇りが溢れていた

劣勢に回った最終日。その中18番のイーグルで追い付きHALVED。4日間5マッチ、不敗undefeatedを成し遂げた男の顔に、達成感と誇りが溢れていた

獅子の子落とし。まさにその心境だったに違いない。尤も、それに対し、ザック・ジョンソンたち何人かが「僕がアンカーを遣りたい」と願い出ている。キャプテン・ハースはその願望に「与えられた自分の役に、全力を投入してこい」と言って、送り出している。

1927年から、約90年続くライダーカップ同様、この手のチーム戦は「キャプテンのゲーム」と言われる。キャプテンのイメージ通りに、自軍12選手を動かせる、と言うことだ。

先月末の代表12選手発表の場。其処で米12番目に、次男ビルを指名したキャプテン・ハース。ここ迄筋書き通りに決着するとは。賞金なし。国旗を背にした、個人の誇りを賭けた戦い。その重みがあった。

(Oct.12.2015)

今季最大の追い上げ劇。全米Open2位オストハイゼン

出場者の大多数が手を焼いた、チェンバース湾コースのグリーンを、金曜日以降ほぼ読み切ったオストハイゼン。彼らの強みは「ゴルフが、アンデュレーションのゲーム」であることを、理解していることだ

出場者の大多数が手を焼いた、チェンバース湾コースのグリーンを、金曜日以降ほぼ読み切ったオストハイゼン。彼らの強みは「ゴルフが、アンデュレーションのゲーム」であることを、理解していることだ

一打差の2位に終わったことの無念。そうでなく、第一ラウンド77。その出遅れから、金曜日以降66、66、67で盛り返した、高い技術と集中力。それが全米オープンの舞台だった。南アのルイ・オストハイゼン。

スピースやデイの前に、ツアーMVP争いには加われなかった。だがハリーウッドに置き換えれば、紛れもなく最優秀助演賞ものの活躍。ただし2010年全英オープンで、既に四大タイトルも掌中にしている。押しも押されぬ、世界的な一級プロ。玄人受けするタイプ。

振り返って6月。全米オープン木曜日。オストハイゼンは77を叩いた。偶然とは言えこの時の同組は、タイガーとファウラー。2人は初っ端から80、81と乱れる。プロ同士他人のスコアに影響されることは少ない。とは言えオストハイゼンもスコアを崩した。第一ラウンド68のスピースとは9打差の77。常識的に、この時点で脳裏を過ぎることは二つ。「どの様にして36ホールを通過するか」。もう一つは、早々諦めるか。

果たせるかな、タイガーとファウラーは、最下位近くでカットされた。だがオストハイゼンは違った。金曜日以降の三日間で11アンダーと盛り返す。そして通算4アンダー。優勝したスピースを、一打差にまで追い込んでいた。滅多に見られない猛追。これは今季最高の追い上げだった。

米ツアーを取材していて面白い部分。それは最終日バック9での、手に汗を握る攻防。他のスポーツでも、大詰めでの抜きつ抜かれつ。どんでん返し。これは観る側にとって、堪らない魅力になる。

続く7月の全英オープン。この時は最終ラウンドが、月曜に持ち越されたほどの強風悪天候。その中でオストハイゼンは、3人のプレーオフに残っている。

あらゆるタイプの、コースで結果を出すオストハイゼン。それを支えるのは、レベルの高いスイングだ

あらゆるタイプの、コースで結果を出すオストハイゼン。それを支えるのは、レベルの高いスイングだ

オストハイゼンが創った熱狂は、未だある。2012年のマスターズ最終日。セカンドが打ち下ろしの2番パー5。4番アイアンの第二打は、253ヤード先のカップに消えた。パー5のホールを2で上がる、ダブルイーグル。マスターズでの、有名なダブルイーグルは、1935年のサラゼン。この時15番で、第二打を放り込み、先行していた、クレイグ・ウッドを逆転して優勝した。いまでも語り草。

そのサラゼンから、オストハイゼン迄、マスターズで記録された、ダブルイーグルは僅か四つ。

それほど希な記録。これが効いてオストハイゼンは、通算10アンダー。首位に並ぶ。だがサドンデス2ホール目でボギーを打ち、ピンク・ドライバーのバッバ・ワトソンの軍門に下った。

それにしても、メジャーの舞台で、これだけの活躍をする高いスキル。その南ア人が次に登場するのは、今週8日開幕のプレジデンツCup。これは米vs.国際チームの戦い。マッチプレーのチーム戦だけに、過去を振り返っても、試合の鍵を握る男が登場する。今季の実績から推し量り、その一番手は紛れもなく、この男になる。

そのオストハイゼン。最近PINGとの、契約を更改している。ベテランのウエストウッドを筆頭に、PINGのプロは、殆ど生涯PINGの用具で押し通す。理由は「よい道具でプレーすれば、結果は付いてくる」(ウエストウッド)。

プレジデンツCupの舞台は韓国。国際チームが勝った場合、MVP候補のナンバーワンは、オストハイゼンだ。

(Oct.05.2015)