「実力もないのに、猫も杓子も、メジャーリーグとは、世も末」と嘆く声。
一方で昨今スポーツは、大多数が世界を相手の競技。そんな中、大きく遅れを取っているのが、日本のゴルフ。理由の一つとして考えられること。それは世界との接点が、余りにも少ないこと。7月の全英オープン。日本ツアー勢7人は、全員が36ホールのカットで、振るい落とされた。この壁を乗り越えてこそ、話題性としても、世界に一歩踏み出すことが可能になる。
この写真、三千二百ドルの小切手を、手にするこの若者。名前はショーン・ジャクリン。ナニやら聞き慣れた名前。そう、父親はトニー・ジャクリン。名は父親トニーの親友、007のショーン・コネリーから、戴いたもの。
説明する迄もなく、父親トニーは、英国を代表するプロ。69年リザムでの全英オープン。続く70年には全米オープンでも勝利。更にその後ライダーカップのキャプテンとして、1983年から四度登場。2勝1分け1敗の好成績を残した。
ちなみに私が初取材したライダーカップは1989年。この時は14対14のドロー。表彰式で挨拶した米のキャプテン、フロイドが「どちらにも勝ちは付かなかった。とは言え、この熱戦はゴルフと言うゲームの勝利を、強く世界に印象付けた」との名台詞。この時も(残念ながら)日本のプロとの、知的レベルの大差を、実感させられた。
ショーンは、名選手であり、名将でもあったトニーの息子。高校時代には、全英オープンでバッグを担ぎ、父親の背中を見てきた。そして気が付いた時、父と同じ道を選んでいた。そして今は欧州ツアーの下部組織、チャレンジツアー中心の活動。三千二百ドルのこの小切手は、最近米で獲得した時、歓びの母親アストリッドが、私たち仲間内に送ってきたもの。
その時私は「千里の道も、一歩から。粘り強く」とのメモを返信した。
偉大な父親を持つ息子たち。ことゴルフに限っても、プロ転向したニクラスの3人の息子。ジャンボの長男智春。ゲイリー・プレーヤーの次男ウエインたち。そこそこ迄遣ったが、定着はできなかった。それはニクラス、ジャンボ、プレーヤー達が凄過ぎたこと。それはショーンにも当て嵌まる。
他の業種。例えば歌舞伎は世襲が利く。歩き始めた頃から、父親がマンツーマンで指導。そして二十歳前後で独り立ちする。それより何より、他にライバルが入れない社会。だから親の名跡を継げることになる。それでも取材する限り、看板を保つためには、大変な努力の積み重ねが、必要なようだ。
話は世界との距離が遠い儘の、日本男子ツアー勢。前述通り全英オープンで全滅。それでもこの秋、岩田寛が米ツアーに挑むそうだ。
正直な比較。日本ツアー勢の多くは、米ならWeb.comTour。欧州だとチャレンジツアーのレベル。そのギャップを、岩田が乗り越える。そのためには、行く先々で必要な情報を着実に得る。勿論それは世界共通基準の。それは自分のプレーの後押しになる。それでもひとたび、国内ツアーに戻れば、彼らそんなことは、ケロッと忘れたかのようになる。それは(世界との繋がりが、余りにも弱いからだ)。
岩田が挑むのは米ツアー。それだけでなく、例えばトーナメントの少ない夏期。若手はあらゆるコネを駆使。これら米欧の二部ツアーに出場したらいい。ショーンたちに混じって。
そこで腕を磨くことは、同時に世界に繋がる話題性にも、突き当たれることになる。その結果として、松山英樹や、テニスの錦織圭クラスの競技者が、新たに誕生する可能性に結び付く。
「力もないのに、メジャーを云々」と書いたが、この手法は日本男子が、海外を踏み台に出世する筋書き。日本人好み。充分な説得力がある。
007の名を貰った、名手ジャクリンの息子。彼のこれからの成長を見守る。大きな楽しみの一つだ。
(Sep.07.2015)