ペブルビーチを連破。Pacific Dunes再度人気一位に

ザ・プレーヤーズの舞台、TPCソウグラスを筆頭に、ピート・ダイ設計のコースも、負けず劣らず人気だ。左は筆者

ザ・プレーヤーズの舞台、TPCソウグラスを筆頭に、ピート・ダイ設計のコースも、負けず劣らず人気だ。左は筆者

約1万7千のゴルフ場がある米国は、パブリックコース天国でもある。その多くは二、三十ドルで遊べる市営、郡営(時に州営)の施設。それに薄暮や学割、高齢者割引が加わるから、料金はドンドン安くなる。

一方で企業が持つパブリックコース。これは値が張る。最も高額なのはペブルビーチ。シーズンによって多少の違いはある。それでも495ドルから530ドル。ここの強みはアウティング(企業ぐるみのコンペ)が、一年先まで埋まっている人気。多くの場合は高額のロッジに宿泊。そして翌日ゴルフを楽しむ。超リッチな気分になれる。更にあのロゴの、マーチャンダイズが、年間12億円以上捌ける。圧倒的な存在だ。

これに続くのが5百ドル。これらは共にラスベガスのコース。シャドークリークと、ウイン・ラスベガス。料金はともに5百ドル。設計者は双方ともトム・ファジオ。さらにザ・プレーヤーズの舞台TPCソウグラス。ここは米ツアーの本拠地としても知られる。495ドル(夏のオフシーズンは300ドル)。6月の全米オープンで、日本での認知度が、急騰したパインハーストNo.2。ここが450ドル(夏期は370ドル)で続く。

太平洋北西部とは、加州の北に位置する、オレゴンとワシントン両州。ついこの間まで、ゴルフで注目されることはなかった。とは言え、加州の北だから、沖を流れるのは寒流。加えて海岸線は、ずっと砂地デューンズ。条件としてはゴルフの歴史を持つ、スコットランドや、アイルランドに、似た素材を揃える。

オレゴン州バンドンは、そんな中でもゴルフ場に最適の立地。そこで2001年に開場した新設が、パシフィック・デューンズ(Pacific Dunes)。設計者は、玄人好みのコースを造るトム・ドーク。SI(スポーツイラストレーテッド誌。編集責任はジョー・パソブ記者)が2年に一度実施する、それらパブリックコースのアクセス・ランキング。そこで僅差ながら、再度ペブルビーチを下し、今年一位を守った。

ちなみに二度連続2位はペブルビーチ。有料道路17マイルドライブが走る、超高級宅地。その白波砕ける海岸線に、サイプレスポイントに並んでの立地。そんなことで、日本人にも超の字の付く人気。一方で2010年全米オープン。この時は「舞台がペブルビーチ」と言う理由で、予選のエントリー数が、史上最多を更新している。またこの2年で、9番、10番のフェアウエイを、より海側に近付ける等の、緻密な改造も重ねてきた。何処から見ても、大衆ゴルファー憧れのコース。そのペブルビーチを、またしても破ったのが、パシフィック・デューンズだった。

ゴルフでは、よく「日本の常識は、世界の非常識」と言われる。代表的なのが、ゴルフ場の名称。日本の場合、その多くが、いわゆるカントリークラブ。実はこの名称、緑したたる田舎に、ゴルフ、乗馬、テニス、水泳(英国だとこれに狐狩りの森が加わる。全米オープンの1898年の開催コースは、そんな伝統を引き継いだMyopia Hunt(狩猟) Clubマサチューセッツ州だった)を揃えた施設。

もう一つの位置付け。多くのカントリークラブは、それとは別に、街中にシティクラブを所有。週日はそこを拠点に活動。その疲れを癒やす。その目的で週末、家族と過ごす場所。それがカントリークラブ。当然メンバーと、そのゲストに限定される。それに比べ日本のカントリークラブ。これは大多数が、メンバーと一緒でなくとも、ラウンドが可能な、パブリックオープン。「このゴルフ場は、予約できません」と堂々謳っているゴルフ場は、日本では恐らく軽井沢ゴルフ倶楽部くらいなモノ。

それに比べ、例えば米国は、カントリークラブで、顔も知らないビジターが、メンバーに同伴されることなく、プレーすることは不可能。もっと言えば、コースの敷地内にさえ入れない。それがカントリークラブの姿勢でありシステム。要するに「Private Only」または「Members Only」。それがクラブなのだ。海外の。

繰り返すが米国の場合、約1万7千コースの6割以上が、パブリック・オープンしている。パブリック・コースの別な説明は「Daily fee course」。日々の入場者。その支払いでコースの、維持運営を賄うシステム。勿論それを大別すると、前述したように、公営と企業所有の、2つのパブリックに分かれる。日本人が漠然と描く「米のパブリックコースは廉価」の印象。それは多くの場合、公営のパブリックコースの話になる。

その料金システムがあるから、米でゴルフは「郵便配達夫から、大統領迄が楽しむ、大衆のスポーツ」としての認識に、大きな根が生えているのだ。

其れが理由で、例えばオーガスタ・ナショナルGCは、メンバーとゲスト以外、ゲートさえ通過できない。だが心配無用。大衆が憧れる多くの有名コースが、そんなことで「Daily fee course」として、一般消費者のプレーを可能にしている。要するに誰でもプレー出来るコースが、全米に点在する。それらはパシフィック・デューンズと、ペブルビーチだけに留まらない。ニューヨークのベスページ(ブラック)。アリゾナのトルーン及びトルーン・ノース。ヒルトンヘッドの名勝ハーバータウンGC(サウスカロライナ)迄。

私の何人もの友人。彼らは新婚旅行の途中。これらのコースで、思い出のゴルフを、満喫している。ゴルフ場側も、それを祝福する。海外のゴルフとは、そこ迄の幅の広さがある。それを可能にしているのは、繰り返すが、多くの有名Daily fee courseの存在なのだ。

パシフィック・デューンズの料金は295ドル(冬期は75ドル)。ペブルビーチに比べたら半額に近い。歴史そして施設の違いからしたら、当然の値段の差。それでも僅か十数年の、新参パシフィック・デューンズが、一位を死守した結果は、評価されるべきだ。

余談だが、世界、そして全米のコースランキング(トップ百)で、ここ数十年、首位を保つのがパインバレー。ペンシルベニア州フィラデルフィアの郊外。ここはマスターズの会場、オーガスタ・ナショナルGCに並ぶ、プライベートクラブの雄。コースとして、それに匹敵するのがペブルビーチ。その牙城を揺るがす、新設コースが登場した。海外のゴルフに対する認識。そして設計者の能力は、どんどん進化している。