無意味。墜ちたタイガー・ウッズの、次のコーチ論争

 中央の痩身男性が、タイガ(右)ーの2人目の、スイングコーチだったハンク・ヘイニー。マーク・オメーラ(左)は、タイガーが兄のように慕うプロ仲間。そのオメーラを、成功に導いたコーチがヘイニー。その関係で、ブッチとの関係が終わった後、タイガーとの契約に至った

中央の痩身男性が、タイガ(右)ーの2人目の、スイングコーチだったハンク・ヘイニー。マーク・オメーラ(左)は、タイガーが兄のように慕うプロ仲間。そのオメーラを、成功に導いたコーチがヘイニー。その関係で、ブッチとの関係が終わった後、タイガーとの契約に至った

ツアーに復帰したものの、痛みが再発。この夏、絶不調を続けたタイガー・ウッズ。それが理由の一つ、でもあったのだろう。2010年からスイングコーチ契約していた、カナダ人インストラクターの、ショーン・フォリイ(40歳)と解約した。プロとキャディの関係同様、ツアーの世界では、よくある話。

プロ転向時はブッチ・ハーモン。2人目のハンク・ヘイニーに続く、三代目のスイングコーチだった。
この18年。奇しくもタイガーのバッグを担いだキャディも3人。それらはフラッフこと、マイク・コーワン。二代目がスティーブ・ウイリアムズ。そして現在のジョー・ラカパ。その間に記録した米ツアー優勝は79回。勿論その中には、14箇のメジャータイトルが、含まれている。

その第一人者が、今季は獲得した賞金が、僅かに10万8275ドル。首位でシーズンを終えた、25歳マキロイの稼ぎ(828万0096ドル)と比較すると、目が眩むほど少ない。ランキングは何と201位。

3月31日腰にメスを入れた。それが理由で、マスターズと全米オープンは、出場さえできなかった。回復までに「最低でも90日の治療が必要」だったからだ。そして7月の米ツアーで復帰。続いて全英オープン、全米プロ等で合計7試合。だがタイガーらしさは、何処にも見られず。その結果として、フォリイとの決別。待ってましたとばかりに、米のスポーツマスコミは「さあ、タイガーの次のコーチは誰か?」との論争で姦しい。

結論から書くと、これはまったく無意味。それが私の判断だ。何故ならタイガーの、現在の不成績は、スイングに理由があるわけではない。体調の問題。それはゴルフ場へ行く前に、医師に相談すべきこと。もう一つある。タイガーほどゴルフに精通したプロ。彼なら、一々インストラクターを必要とせず、自分の脳内に蓄積した、知識で充分処置できるとの判断だ。

まず一つ目の話。タイガーの栄光の歴史は、同時にケガの繰り返しでもあった。幸運にも私は、1997年3月末。週刊文春で2週連続、4頁寄稿する機会を得た。その約半年前スタンフォードを2年で中退して、プロ転向していたタイガー。当時としては、破格の70億円契約金。登場した超スーパー新人に、編集部白幡デスクが、関心を示してくれた。その結果だった。

期待通り、タイガーは翌週のマスターズで、初のメジャータイトルを、掌中に収める。それも2位カイトに、12打差を付ける圧勝。圧巻だったのは、池越えのパー5,15番。かつて青木功が、レイアップ(刻む)してバーディを取った時。拍手がマバラだった名物ホール。そこで21歳は、第二打を何と、ピッチングウエッジで打っている。スコア的な強さだけでなく、この飛距離に、世界は驚愕した。

タイガーと彼の両親を、私に紹介してくれたのは、加州のプロ、スティーブ・クック。タイガーがまだ中学生の時。

それ迄スティーブは「アフリカ系だが、騙されたと思って、一度会ったらいい。とんでもない逸材なのだから」と、繰り返し私に、助言してくれていた。そのお陰で、タイガーが中学生の時から取材して来た幸運。25年前のこと。まさかアフリカ系の子供が、その後世界のゴルフ界を、リードすることなど、誰も考えない時代だった。

その後タイガーは、順調に成功の階段を登る。財産一つは類い希な飛距離。それを産んだのは、超高速のスイング。処がこれが、両刃の剣だった。スティーブが早くから危惧していたのは、この部分だった。

「タイガーのスイングは、強くて高速。その力を受け止めるのは左膝。その部分の負担が、他の誰よりも大きい。その結果として、遠からず左膝が痛み出す可能性」。それがスティーブの危惧だった。スティーブの読みは的中する。タイガーはその後、大学時代を含め、4たび膝にメスを入れる。08年の全米オープンで優勝した。その時は膝の痛みを、堪えながらのものだった。

その後は、痛みが膝だけに留まらない。足首、腰から背中へと広まる。そして今年3月31日。マスターズ直前に突然の手術。そして現在の、不振に繋がっている。だから、いまタイガーに関し、次のスイングコーチの話をしても、意味がないことなのだ。

スイングコーチに関し、別の考え方もある。クリス・ディマルコは、05年マスターズで、最後までタイガーと、グリーンジャケットを争ったプロ。彼の持論は、こうだ。

「米ツアーは、世界最強のツアー。そこで僕たちは中心的な存在。それ程の技術を持つ我々が、衆人環視の中で、何故コーチと称する人間の、教えを受けなければならないのか」。

その逆はミケルソン。彼はスイング全体はブッチ。ショートゲームとパットは、デーブ・ペルツ。更にここ数年に限っては、かつての強豪プロ、デーブ・ストックトンの教えを得ている。

ディマルコ、ミケルソン。それぞれの言い分に必然性はある。例えば他の職業でも、物事の判断をする時に、相談する相手は必要。それと同じかも知れない。

ジャック・ニクラスの、最後のメジャータイトル。それは彼が46歳の時のマスターズだった。その結果、彼の獲得メジャータイトルは、18箇に達した。一方のタイガーは、この12月で39歳になる。彼が背負った薪は、ほぼ燃え尽きた。それが私の受け止め方だ。

そのかつてのスーパースターの、次のコーチの話。それはだから、まったく無意味でしかないことが判る。(Sep.15.2014)