過去50年。トレビノとチチは、連日百人にサインをしてきた

脱帽し、敬意を表してニクラスに挨拶する、今季メジャー2勝のマキロイ。場所はライダーカップの、グレンイーグルス。相手の目を見て、話すことの大切さ。そこに相互信頼が生まれる

脱帽し、敬意を表してニクラスに挨拶する、今季メジャー2勝のマキロイ。場所はライダーカップの、グレンイーグルス。相手の目を見て、話すことの大切さ。そこに相互信頼が生まれる

65歳以上の3千万の一人に、なった今では困難なこと。だが髪が未だ黒かった頃。トーナメントで、何度もキャディを体験した。

最初は金髪のスウェーデン娘、ピア・ニルソン。加州サンノゼでの、1983年最終戦。翌年にはリー・トレビノ。さらにチチ・ロドリゲス、ゲイリー・プレーヤーと続いた。選んだ条件は、世界的なプロで、背格好が似ていること。

その中でも、トレビノとチチの、大衆性は圧倒的。ラウンドが終わると、連日80人から百人の、観客が列をなす。サインを貰うため。その間ズッと立ち続け、と言う訳には行かない。乗用カートに座り、出されるプログラムや色紙に、次々サイン。渡す時、相手の目を見て一声掛ける。

相手が子供なら「宿題は、積極的に遣っているな?」「親の言うことを、よく聞けよ」など。また女性ファンは、殆どが手を伸ばし、握手を求める。

朝の練習場。前列に子供の姿を見付けると、チチは直ぐさま「ボール、打ちたいか?」と声を掛け、ロープの内側へ招き入れる。当人と家族ばかりか、他の観客も即座にチチに好意を持つ。トレビノにしても同じこと。それにしても毎日80人も百人も。大変なエネルギーだと思うが、彼らは平気だ。

1984年、全米プロで6個目の、メジャータイトルを獲得した、2ヶ月後のトーナメントで、トレビノのキャデイをした筆者。ニクラス同様、私が最も多くの、教えを受けた先輩がトレビノ。彼は目の前に客が、一人でも居る間は、笑顔を振りまき、トコトン喋り続けた。ただしサービス出来るエネルギーには限度がある。そんなことで彼は、ホテルの自室に消える時間も早かった。

1984年、全米プロで6個目の、メジャータイトルを獲得した、2ヶ月後のトーナメントで、トレビノのキャデイをした筆者。ニクラス同様、私が最も多くの、教えを受けた先輩がトレビノ。彼は目の前に客が、一人でも居る間は、笑顔を振りまき、トコトン喋り続けた。ただしサービス出来るエネルギーには限度がある。そんなことで彼は、ホテルの自室に消える時間も早かった。

米のゴルフには、かつてのジョーンズ。そしてホーガン、パーマー、ニクラス達。圧倒的な主役。それを個性豊かな脇役が、支えてきた。その代表がトレビノであり、チチだった。2人の名前が出ると、速射砲の如く喋るトレビノ。そしてバーディパットの後。パターを剣に見立て、相手を突き刺す演技のチチ。兎角これらが強調されがち。とんでもない。彼ら2人で観客に与えたサインの数。それは天文学的数字。それはそのまま、開拓してきたファンの数でもあるのだ。

欧米ツアー勢。彼らを目の当たりにすると、日本人プロの社会への、参加意識の低さに驚く。

十月末のブリヂストンOpen。最終日。終盤の組が終了すると、ハウス前に長い列ができる。ところが此処に、コミュニケーションがない。サインするプロは、笑顔を作るでなし。ましてやトレビノ、チチのように、声を掛けることもしない。

「何と勿体ないこと。コースまで来た客の心を掴む、絶好の機会を逃している」。それが私の素直な印象だった。

この時、男子ツアーは同じ千葉県で、2週続いた。それも理由の一つで、ブリヂストンOpen最終日は、不入りだった。最大の原因は「観たいプロが、殆どいない」(観客の声)。

昔のジャンボ尾崎や、数年前の遼の様な、人気者は滅多に、生まれるモノではない。そんな冬の時代こそ、小さい努力の積み重ねが必要。その一つの手法が、サイン時の、ファンへの声掛けなのだ。

前出のトレビノやチチ。彼らが開拓した、ファンの数は、途方もない数字。追い付くことは困難。だが参考にはなる。その一つが、サインを渡す時の、笑顔と一言。

これは選挙と同じ。声を掛けられ、握手をすれば、人間の心理として、相手に好意を持つ。ゴルフの場合、それが翌年の来場に、結び付く。

簡単なロジック。そんなことも分からず、袖ヶ浦CCで目撃した、日本ツアーのプロ達は、長蛇の列を作った観客に、笑顔も声も、殆ど与えていなかった。それより何より、鉄柵での仕切りは、冷酷過ぎないか。

私の近くにいた中年男性が「プロって、何様の積もりなのですかね?」と囁いた。

海外の場合トレビノ、チチ達ベテランだけではない。レギュラーツアーの若手。彼らも負けてはいない。

長いこと私が、本拠地にして来たアリゾナでの、フェニックスOpen。此処は18番からハウス(選手のロッカーがある)迄、プロ達はロープで仕切られた、長く細い通路を歩く。そこで観客はサインを貰い、プロとの写メも可能。プロ達も心得たモノ。何も持たない観客には、その日使ったボール、手袋。さらにヘッドギアに迄サインをし、渡す。若い女の子など「これ、私の宝物」と狂喜する。

これが大衆の心を掴む、コツなのだ。

米国かぶれ、と言われるかも知れない。米が総てではない、との反論があることも、承知している。

だがこれだけの、客観的事実を比較すれば、結論は一目瞭然だ。

プロ競技は、ゴルフ界の宣伝機関。プロ競技の人気が高まれば、ゴルフ界全体が盛り上がる。そんな流れの中、日本では来年も脱落する、トーナメントがある。この秋も4日間で、観客が1万人を割る試合が続いた。

今や危急存亡の時。それだけに日本ツアーのプロ達も、サインを笑顔で、一声掛けて渡すといい。トレビノやチチの様に。繰り返すが選挙と同じ。声を掛けられた大衆は、心理的にそのプロに、好意を持つのだから。

(Nov.3rd.2014)