僅か5ヶ月の間に、自己ワーストを二度も書き換える。前回は82。並みのプロではない。天下のタイガー・ウッズだ。
メモリアルの土曜日。さらに悪い85を打った。ニクラスがホストを務めるこの競技。タイガーは過去5度優勝している。得意中の得意なコース。そこで自己最悪スコアを更新。それも2つのダブルに加え、18番ではquadrupleの8。5つのボギーも多過ぎる。だが一ホールで8を叩く。これは、既にタイガーのゴルフではない。他に置き換えれば、かつての王、長嶋が、打率一割台に低迷したに似る。ここ迄劣化したら、残された道は唯一つ。それはツアーから引退すること。その場合39歳の年齢は関係ない。
今年の全英オープンは、セントアンドルーズのオールドコース。16世紀からゴルフがプレーされたと、伝えられる。いわゆるゴルフの聖地。タイガーのメジャータイトル数は14。そのうちの3つは全英オープンでのもの。それらは2000年、05年、06年の連覇もある。然も2000年と05年は、共にオールドコースだった。タイガーにとっては、得意であり思い出も、タップリ詰まったコース。そこを最後の舞台にする。
既に離婚している。とは言え、2人の子供を儲けた、スウェーデン人の奥さんエリン。彼女と出会ったのもこの頃オールドコース。エレンはパーネビック家族の、ベビーシッターとして一週間を過ごす。そこでで口説き始めたもの。パーネビックの3人の娘は、既に金髪を靡かせる、美しい女性に成長している。
時の流れは早い。その間にタイガーは、とんでもない女狂いが暴露される。トーナメントの合間に、全米の女性百人の尻を追っ掛ける狂乱。ニューヨークで、そしてベガスで。彼のように自家用ジェット機があれば、広大な米大陸の移動も簡単。我々が都内を、タクシーで異動するに等しいこと。
セラピストの世話になり、トーナメント出場を自粛。エリンとは離婚し、推定数百億円の慰謝料を払う羽目に。それでも好成績が続けば、ツアープロだから何とかなる。
スキャンダルが発覚したのは、2009年11月末。感謝祭の週末だった。それから成績は急降下。更新目前だった、米ツアーの最多勝記録〔82勝)も79で足踏みしたまま。かつて自分の定位置だった世界ランク一位。それも172位まで落ちた。
タイガーを幼児の頃から知るスティーブ・クック。私の編集担当プロが、次のように説明する。
「プロとしての年齢が、実年齢より大幅に老けたことは否定しない。特に技術的に」と前置き。「醜聞に見舞われたことで、性格が頑なになった。技術とともに、精神面での引き出しの中身が、急速に少なくなった原因は、そこに在る」。
ジャック・ニクラスはいま75歳。メモリアルのホスト。世界中でのコース設計。そして社会奉仕。多忙な日々を過ごしている。
十数年前、仕事の打ち合わせでロサンゼルスで会った。その時、開口一番「デューク、私はもうマスターズには出場しない。数週前オーガスタで80を打った。それも白ティから。如何なる状況でも、80を打つゴルフは、観客に見せるものではない」。それが理由であり、帝王ニクラスの誇りだった。
タイガーは、ジョーンズ、ニクラスに並び、過去百年の三強の一人。その男が、5ヶ月の間に、80台を二度も叩いた。身を引くに、充分な決断と言える。
(June.8th.2015)