前売り券が完売する。ミズモノ商売のショービジネスで、主催がこれほど、心安らぐことはない。
6月の全米オープン。目新しい舞台と、21歳ジョーダン・スピースの優勝。多くが声援を送った。その数は連日3万1千。あれだけの顔触れ。当たり前の数。だがこれが29年連続の完売と聞けば、いささか驚くに違いない。
恒例のことだが、全米オープンは今年の競技開始と同時に、翌年の前売り券を売り出す。かつては郵便で申し込んだ。それが現在はネット販売。一日とは言わないが、完売に要する時間は、瞬く間。
来年の全米オープンは、ペンシルベニア州のオークモント。遠く1962年、22歳ジャック・ニクラスが、プロ初勝利。それも宿敵パーマーの本拠地で飾った。その歴史的な舞台。開催期間は16年6月16日から19日。その切符が6月15日。既に発売になった。
今年の全米オープンが、6月18日初日だったから、その前。何と手際のよいことか。値段は各種。最も一般的なのが50ドル。これ日本なら、3千円見当か。その先は飲食など、会場で受ける待遇に応じ、値段が上がって行く。
ただし50ドルの切符で入場すれば、丸一日全米オープンの熱狂に浸れる。悪くない料金だ。何しろ世界ランクの上位が勢揃いする、豪華な顔触れなのだから。
別の業種の話。5月4日、パッキャオvs.メイウエザーのタイトルマッチ。会場はベガスの、MGMグランドガーデンアリーナ。普段でも自家用ジェット機で混雑するベガスの空港。この日は満杯状態が、映像で送られてきた。人が集まればカネが落ちる。ベガスならではの商法。
質の高いショーを用意すれば、世間の注目を集める。切符は捌ける。ゴルフからボクシング迄、彼らの商売上手に、常に感心させられる。それにしても、一年前に切符を売り出す。それも1日3万1千枚。これって結構、手間暇が掛かる。何故なら購入した人達。彼らは1年先の予定を、押えなければ、ならないからだ。
遠路の場合は、宿泊や交通手段の予約も必要になる。
同じシステムを採用しているのが、4月のマスターズ・トーナメント。ここでは年内クリスマス迄に、招待競技者が決定。それを受け、正月明けを待って、登録されているパトロン(観客)一人々々に郵便を発送。「あなたは今年も、マスターズを観戦する機会を、与えられました」。手続きを勧める内容だ。
その様なシステムの中で、多くのパトロンは、10年も20年も、連続して、オーガスタの一週間を漫喫している。マスターズの場合、ギャラリーとは呼ばない。パトロンとは、マスターズそのものを育てる、と言う意味を持つ。
その様な歴史と伝統。その同じことがナショナル選手権、全米オープンでも実施されている。それが1年前の切符売り出し。そして29年連続の完売。その実績なのだ。これでゴルフに、人が集まらないはずがない。
それに比べ、日本のゴルフは大きく遅れている。その端的な部分。それがこのシステムの違い。毎週4日間で、日本の観客は1万人前後。全米オープンの、1日3万1千にも及ばない。その差は50年。更に広がるだけだ。
(July.06.2015)