シリコンバレーの、億万長者がキャディ。全米オープン

昨年のメリオンで頂点に立ち、英国に凱旋したジャスティン・ローズ。 億万長者のキャディは、いま彼と同じ舞台に立っている。さぞ楽しんで いることだろう

昨年のメリオンで頂点に立ち、英国に凱旋したジャスティン・ローズ。億万長者のキャディは、いま彼と同じ舞台に立っている。さぞ楽しんで いることだろう

思わず「嘘だろう」と、言いたくなるような、桁外れと言うか場違いな話。

今週の全米オープン。そこでシリコンバレーの億万長者が、キャディをしている。億万長者は英語でBilionaire。億ドルは百万ドルに、さらに0が三つ付く。とんでもない額なのだ。

地元紙、サンフランシスコ・クロニクルに拠ると「件のキャディの年収は、今週パインハーストに集結したプロ。彼ら全員の収入合計より、遙かに大きい」と言う。億万長者なら、当然のことだ。

数週前のメモリアル。ここで優勝した、松山の賞金は111万6000ドル。一ドル百円換算で、約一億一千万円。22歳の稼ぎ。一般大衆には、垂涎の的。

それでも遠い存在が、タイガーと彼の周囲の人間の稼ぎ。

タイガーは全米オープンで、3度優勝している。2000年、2002年。そして2008年。初タイトルの2000年は、舞台がペブルビーチ。この時、米の記者仲間と計算したら、タイガーのキャディ、スティーブ・ウイリアムズの稼ぎが、年間百万ドル(約一億円)を突破していた。

稼ぐキャディの収入は、一般的にプロの賞金の10パーセント。と言うことは、タイガーは途方もない額を稼いでいた。

米の雑誌フォーブスが、スポーツ界から注目されるのは、彼らが、スポーツ選手の収入を記事にした時。一度は2009年秋のことだった。

タイガー級の超トッププロの、収入は間口が広い。その中で賞金が全体に占める、割合は非常に小さい。その他に米ツアー以外(例えば日本や湾岸地域など)に出場する時のギャラ(アピアランス・マネー)、スポンサー企業との契約金プラス成功報酬のボーナス。それに加え、最近のタイガーは、コース設計の分野にも、乗り出している。

その結果スポーツ選手として、史上最年少で億万ドルに到達したのが、2009年の秋だった。

タイガーが、スタンフォードを2年で中退。プロ転向したのは1996年晩夏。それから億万長者に到達する迄13年を、要したことになる。億万長者とは、斯くも巨大な集大成なのだ。

それでは何故、シリコンバレーの億万長者が、今週の全米オープンで、キャディをしているのか。理由は簡単。息子のマーベリックが、全米オープンの予選を、突破したからだ。

億万長者の名前は、スコット・マクニーリー。サンマイクロシステムの共同開発者として、巨万の富を築いた。息子がスタンフォードに進み、ゴルフ部の一年生部員。日本的なこじつけをすれば、トム・ワトソン、そしてタイガーの後輩。

ところでスコットランドや北米で、ゴルフは(父と息子のゲーム)。ゴルフ好きな父親は、何としても、息子にゴルフを遣らせようとする。その先には、自分が果たせなかった、四大競技出場の夢を託す。マクニーリーの場合、その息子が名門スタンフォードに進み、ゴルフ部員として、全米オープン出場を果たした。育てた甲斐があったと、満足する一方で、更なるサポートへ、情熱を傾けて不思議はない。そんな背景で登場したのが、億万長者のキャディだった。

前出サンフランシスコ・クロニクル紙の記者の話によると「全国ネットのテレビに出る。ナーバスに」とか、言ったそうだが、とんでもない。一代で巨万の富を築いた成功者。恐らく心配など、社交辞令に過ぎないはずだ。

既に終了した、全米オープン第一ラウンド。息子のスコアは4オーバー74。首位と9打差。大学一年生にしては、決して失望するモノではないはず。

シリコンバレーの億万長者が、息子のキャディを買って出る。日本では滅多に見られない光景。それが簡単に実現するところに、何でも可能な米の面白さ。ダイナミズムが垣間見える。

億万長者の生活など、私たち大衆は想像すら出来ない。とは言え、シリコンバレーと、パインハーストの間の移動に、自家用ジェット機を使用していることだけは、間違いない。

タイガーは、スタンフォードを2年で中退した。理由は簡単。「全米アマチュア選手権で3連勝。アマチュア界では、相手がいなくなった」(当時の監督ウォーリー・グッドウイン)ため。一方億万長者の息子。彼がこの先、どんなプランを持っているのか。父親の後を継ぎ、シリコンバレーで仕事をするのか。それともプロを夢見るのか。

シリコンバレーで具現した、アメリカン・ドリーム。それが(もう一つの夢を産む舞台)全米オープン会場で話題を取る。この豊かな発想は、間違いなく、彼らの持つ、巨大なエネルギーだ。

(June.13.2014)