ライダーカップ、キャプテンTom Watsonの苦悩

 これは20世紀最後のライダーカップ。場所はマサチューセッツ州のザ・カントリークラブ。勝利を喜ぶ、ジム・フューリックと、彼のキャディ、フラッフことマイク・コーワン。チームで戦うことで、ライダーカップには、通常の競技では見られない、重圧が溢れる

これは20世紀最後のライダーカップ。場所はマサチューセッツ州のザ・カントリークラブ。勝利を喜ぶ、ジム・フューリックと、彼のキャディ、フラッフことマイク・コーワン。チームで戦うことで、ライダーカップには、通常の競技では見られない、重圧が溢れる

年齢的に微妙な立場の2人。タイガーとミケルソン。この2人の処遇を、どうするか。ライダーカップの米キャプテン、ワトソンはここ数ヶ月、難しい選択に直面して来た。

国旗を背に、国と個人の名誉を賭けた、ゴルフの戦い。それがライダーカップ。最終日の、劇的大逆転があった二年前。最近はテレビ観戦できることで、日本にもファンは急増している。とは言え、サッカーW杯決勝の熱気。それが3日間。ゴルフ場で続けられる、あの雰囲気を、日本のテレビで百%理解することは困難だ。

二年前の舞台は、シカゴの有名コース、メダイナ。剣が峰からの最終日。欧州はマキロイ、ローズ、ドナルド達が、最初の5マッチを連取。瞬く間に、形勢を逆転した。その前2010年。そして2006年も、欧州が勝利している。従って過去4回で、米が勝ったライダーカップは、2008年(米バルハラ)一度だけ。要するに、米はこのところ、欧州で連敗中なのだ。そして今年9月最終週。その舞台も欧州。スコットランドの、グレンイーグルス。

最近の力関係。その中でも、特に欧州で開催される時に勝てない米。その悪い流れを断ち切る。その目的で二度目のキャプテンに任命された。それがベテランのトム・ワトソンだった。

然しワトソンには、難問が立ちはだかって来た。それも2つ。

まずタイガー。彼は3月31日腰にメスを入れた。そしてマスターズ、全米オープンを欠場。それでもワトソンは、キャプテンとして「タイガーが順調に復調すれば、彼をライダーカップの代表に加えない手はない」と自信満々だった。

そして迎えた7月の全英オープン。第二ラウンドで、僅かに片鱗を見せはした。だが終わってみれば69位。その後もWGCブリヂストン棄権。終わったばかりの全米プロは、36ホールでカット。タイガーの順調な復帰を、待っていたワトソンの期待は、打ち砕かれた。

ライダーカップの別名は、キャプテンのゲーム。要するにキャプテンの采配次第で、勝敗が決まる、と言われる。

そのキャプテンの前に、辞退を仄めかしたのが、もう一人の看板、ミケルソンだった。

数週前「いまの僕のゴルフでは、代表に相応しくないのでは」と言い出したのだ。アマチュア時代から、長く取材している。ミケルソンには裏表がない。だから多くに好かれる。彼の笑みは(百万ドルのスマイル)。それだけに正直。

6月の全米オープン。それに勝てば、史上6人目の、生涯グランドスラム。パインハーストNo.2は熱狂した。然し一度も優勝争いに絡めず。そればかりか、WBCブリヂストン迄(信じ難いことに)、今季トップ10フィニッシュがなかった。責任感は人一倍強い男。出場に疑問を持って当然だった。

そんな折り、新しい見解が、ワトソンの判断を複雑にした。それはニクラスの発言だ。プロとしてのメジャータイトルは最多の18箇。1977年のライダーカップ。その他プレジデンツカップでも、数度キャプテンを務めた、ゴルフ界の大御所。

彼が「それでも米チームは、タイガーを選ぶべき」と強調したのだ。過去百年を代表する3人。それはボビー・ジョーンズ、ニクラス、そしてタイガー。これは紛れもない事実。全米アマV3を引っ提げてプロ転向した当時から、タイガーはコンスタントに、ゴルフ界の象徴だった。ケガは誰にでもある。それを乗り越えたいま、何はともあれ、タイガーをチームに加えることの重要さ。帝王ニクラスが、言わんとしていることは、それだった。

ライダーカップの代表決定は、米欧両チームとも、今朝終わった全米プロ選手権(ケンタッキー州バルハラ)を受けて行われる。上位9人はポイント。最後の数人は、いわゆるワイルドカード。キャプテンの推薦になる。

米のライダーカップ得点ランク。8月4日の時点で、上位はバッバ・ワトソン、フューリック、ウオーカー、そしてファウラーが4位で付けている。44歳フューリックを除けば、経験者は少ない。

そんな中ミケルソンは11位。タイガーはトップ25位にも入っていない。4ヶ月半で4試合では、タイガーには仕方ないこと。だが、それでも米チームは、タイガーの存在が必要との意見。相手を威圧するためにも。

陣立てに苦慮していたワトソン。彼を救ったのはミケルソン。最終日勝者マキロイを追い上げ、全米プロ選手権で2位に入ったこと。2位は満足する成績ではない。それでもレフティの今季初トップ10は、ワトソンにとって、何よりの追い風。タイガーの不調を補って、余りある嬉しい情報だったはずだ。

同時に若手の多い米チーム。それをまとめ牽引する役として、ミケルソンの(経験という力)が、改めて見直されることになる。

ワトソンが最初に務めたキャプテン。それは1993年のこと。場所はイングランド。この時は拮抗した戦力ながら、ワトソンの米チームは、15対13で勝利。キャプテンの采配が光った。そして二度目の登場で、再度の勝利。その十字架を背負わされたワトソン。彼のキャプテン推薦選手が誰になるか。注目される。

(Aug.11.2014)