黒人シフォード92歳。米大統領自由勲章受賞。その光と影

 かつてWASP(アングロサクソン系白人で、宗教はプロテスタント)の象徴だった、首都ワシントンのホワイトハウス。そこでアフリカ人を父に持つ大統領から、メダルを授与される黒人プロ、シフォード。米社会の、過ぎ去った一世紀の歴史が、凝縮されているようだ(photo coutesy by PGA of America)

かつてWASP(アングロサクソン系白人で、宗教はプロテスタント)の象徴だった、首都ワシントンのホワイトハウス。そこでアフリカ人を父に持つ大統領から、メダルを授与される黒人プロ、シフォード。米社会の、過ぎ去った一世紀の歴史が、凝縮されているようだ(photo coutesy by PGA of America)

1936年(昭和11年)ベルリン五輪。ジェシー・オーエンスは、陸上短距離などで、4つの金メダルを獲得。その中継の米の映像で、躊躇なくNegroの表現が、使われていた。

その後黒人を経て、現在はアフリカ系。呼び名が変わっただけではない。当時米南部で、彼らは家畜扱い。乗り合いバスも、前の座席は白人がゆったり。その一方で彼らは後部座席に押し込められた。

マーチン・ルーサー・キングが登場、公民権法の施行が1964年。20世紀初頭は、プロ野球の二グロ・リーグも存在した。肌の色の違い。その差別を乗り越えた1947年。あのジャッキー・ロビンソンが、黒人初の大リーガーに抜擢された。

年齢も、活動した時代も大きく異なる。それゆえ私はシフォードを、直接取材したことはない。その92歳黒人プロが、今回大統領自由勲章を授与された。「米の国益や世界平和の維新。文化活動他の貢献者」が対象になるもの。米ゴルフ界では3人目。これ迄の受賞者2人は、パーマーとニクラス。彼らと比較した時、多くが異質を意識するかも知れない。何れにしろ、シフォードの生まれは1922年。南部の農村ノースカロライナ州。記述した通り、彼の人生前半は、米社会の壮絶な差別が存在した。その時代だった。

リー・エルダー達、数世代下のアフリカ系には、取材もしている。そのうちの一度は、1975年のマスターズだった。だがシフォードとは面識もない。そこで連想させられるのは、反骨精神との言葉。恐らく間違いないはず。

大統領自由勲章を贈られた11月末。シフォードの、次のようなコメントが、ホワイトハウスから出ている。

「私の人生は闘いだった。何故なら私は闘争心が旺盛だったから。その結果、人生の終盤でこれだけ多くの黒人が、ゴルフを楽しむ光景に、接することが出来た」。

マスターズの舞台、オーガスタ・ナショナル。ここでは長いこと、プレーする旦那衆は白人。黒人の役割は、キャディなど下働きだった。シフォードも13歳でキャデイ。そこでゴルフの腕を上げ、1952年のフェニックスで、ツアー競技初出場。これは当時のヘビー級王者、ジョー・ルイスの推薦があった結果。そして1957年ロングビーチオープンで初優勝。その後1975年の全米プロシニアでも優勝。2004年には、黒人として初の、世界ゴルフ殿堂入りを果たした。

またセントアンドルーズ大(スコットランド)から名誉博士号。また米GCSAA(全米ゴルフコース管理者協会)からは、最高の栄誉トム・モリス賞も贈られた。肌の色がどうであれ、堂々たるゴルフ界での実績だ。

この発表があった直後。ニクラスが透かさず、コメントを出している。

「彼の授賞は、記録が対象になったモノではない。チャーリーは、米社会のバリアを取り除いた。その中でも彼は、常に重々しさや気品を、失わなかった」。

1958年。18歳の天才ニクラスが、米ツアー競技に初出場したのは、オハイオ州ファイアストンCCでの競技。彼の話によると「その時、私が最初の2ラウンド、同組になった1人がシフォード」だった。それだけに印象は、強かったはずだ。

一方で、このタイミングで、92歳黒人に、大統領メダルが贈られた背景。それはレームダック化した、大統領オバマの、話題作りとの見解もある。勿論のこと、それを裏付ける証言もある。

広大な米で、私は本拠地を2つ持つ。それらはアリゾナと、加州のロングビーチ。後者には私の編集担当プロで、PGAオブ・アメリカの会員でもある、スティーブ・クックが住んでいる。そのため。頻繁に訪れるし、それ以上に多くの情報も届く。然もシフォードが、プロ初優勝したのは、1957年のロングビーチオープン。そんな歴史も在り、シフォードの話は、折に触れ長いこと酒の席で語られてきた。

「キャデイに優しい言葉を、掛けた姿を見たことがない」。「キャデイフィーを、約束通り払わず、値切った」など。

公民権が施行される前の米国で育った。その時のエネルギー。それはもしかして、反骨精神だけだった。その裏返しが、ロングビーチ周辺で、語り継がれている、チャーリー・シフォードの、陰の部分なのかも知れない。そう思うと92年という歳月は、実に長く貴重だ。

(Dec.15.2014)