米ツアー、この一年最も難度の高かったのは、全米オープン会場

 夏6月、三十万余の観客が熱狂した、パインハーストNo.2コース。秋風に頬を撫でられながら、いま多くの腕自慢が、最もタフなコースでのラウンドを、満喫している(USGA photo)

夏6月、三十万余の観客が熱狂した、パインハーストNo.2コース。秋風に頬を撫でられながら、いま多くの腕自慢が、最もタフなコースでのラウンドを、満喫している(USGA photo)

贔屓で言うのではない。だが米ツアーの仕事は、実に手際良い。何事も消費者が「欲しい」と思った時には、品物が出て来る。その一つが、この一年(2013年から2014年)の、難度の高いコース10傑。最終のツアー選手権は、30人(実質的には29人)。それが始まった週、この数字が出てきている。

それは単に、プロ達の話題ではない。ツアーの開催コースは、一般ゴルファーにとっても、憧れの場所。そこで世界をリードする、米ツアーのトッププロが、どの様な結果を出しているか。それは全米1万7千ゴルフ場。そこで遊ぶアマチュアが、直接間接関連するデータ。何しろ欧米には「あわよくば、プロを負かしてやろう」との野心満々のゴルファーは少なくないのだから。
そんな環境の中、トップ10が次のように発表された。それは設定されたパーに対する、プロ達のスコアの平均。

一位、パインハーストNo.2コース。パーに対しての平均、3.076オーバー。
二位。オーガスタ・ナショナルGC。1.946オーバー。
三位。トランプ・ナショナル・ドラール(ブルー)。1.852。
四位。トーリーパインズ南。1.797。
五位。コングレッショナル(ブルー)。1.546。
六位。イニスブルック。1.433。
七位。ペブルビーチ。1.384。
八位。TPCサンアントニオ。1.286。
九位。ハーバータウンGL。1.038。
十位。ロイヤル・リバプール。0.767。

繰り返すが、これらの数字は、何れもオーバーパーである。その中で、意外な結果の一つ。それは全英オープン会場、ホイレーク(ロイヤル・リバプール)が、10位だったこと。これには言い訳がある。

全英オープンと言えば、冷たい風と、横殴りの雨。それが一般的な印象。だが地球温暖化の所為もあり、今年の第一ラウンド。それは殆ど南加州の様な、好天と暖かさだった。風が吹かなければ、全英オープンの象徴、ポットバンカーも恐くない。その結果、第一ラウンド。大きなアンダーが続出。日本人プロも、その多くが上位に顔を出した。尤も最終的には、勝者マキロイも、傘を差してのプレーになるのだが。何れにしろ木曜日の好天が理由で、難コースのランクで、10位に留まった。

2位のオーガスタ・ナショナル以下は、パーに対するオーバーが、1台。ちなみにオーガスタの場合、1.946。それを大きく引き離したのが、ノースカロライナ州のパインハーストNo.2コース。説明する迄もなく、6月の全米オープンの舞台だ。

今年の全米オープンを前に、コースは大々的に改造された。担当したのは、クレンショウ、ビル・クーアの、売れっ子コンビ。彼らの得意の一つは、フェアウエイの左右に、砂地を多く設けること。加えて今回は、その砂地に地元の雑草(針金のように強靱なワイアグラス)を、植樹した。これは随所で、スコアメークを、困難にした。その結果、72ホールでのアンダーパーは、僅か3人。優勝したカイマー(9アンダー)。そして2位の二人(コンプトンとファウラー)が1アンダーだった。

メジャー競技の優勝者は、歴史に名前が残る。特に勝ってからの一年。何処へ出ても「Our National Open Winner」と、紹介される。スポーツヒーローでも、そこ迄尊敬の対象になる彼ら。その様な歴史があるだけに、メジャー競技の会場。そして並み居る世界の強豪でさえ、3人しかアンダーを出せなかった。その様なコースへは、多くの腕自慢が、挑戦することになる。

秋のいま、ノースカロライナは、ゴルフシーズン真っ盛り。料金もNo.2コース(全体で8コース在る)は450ドルと高額。それでも全米オープンの余韻が残る中。多くの一般ゴルファーが、ラウンドを楽しんでいる。プライベートクラブの、オーガスタ(2位)は、大衆には手が出ない。だが全米オープンのパインハーストは、問題なくティタイムが取れる。

トップ10の中。ドラール、トーリーパインズ、ペブルビーチ、ハーバータウンも、同様パブリックに、オープンしている。従って多くのアマチュアが、ここでもプロのスコアに、挑むことが可能になる。これは大衆ゴルファーを、刺激し上達させる上で、何よりの切っ掛けになる。

その中、取りわけハーバータウン。ここは18番グリーン奥の、灯台がLandmark。要するに海に面した、湿地帯に造られたコース。だから時折、とんでもない低気圧が通過する。そんな日は、プロでもパーを維持することが、精一杯になる。

それらの情報が、シーズン終了と同時に、公開される。この迅速さと豊かなバラエティ。私たち、ゴルフ好きの消費者には、実に有り難いデータなのだ。

(Sep.29.2014)

男だけの世界だった260年。R&A女性会員受け入れ

R&Aのドウソン専務理事。今回の時代の変化。そのリーダーシップを取ったのが彼。その前112年ぶりの、ゴルフ五輪復帰を実現させたのも、彼の働きだった(both photos courtesy of R&A)

R&Aのドウソン専務理事。今回の時代の変化。そのリーダーシップを取ったのが彼。その前112年ぶりの、ゴルフ五輪復帰を実現させたのも、彼の働きだった(both photos courtesy of R&A)

歴史が変わる時とは、常に劇的だ。

9月18日(日本時間19日)英国で、2つの投票結果が、発表された。

一つはスコットランドの、英国からの独立に関する住民投票。これは、反対が55%を越えた。欧州産原油の60%を産出するのが、スコットランドの海底。更に世界の飲み助が愛飲する、スコッチウイスキー。それより何より、ゴルフ好きにとっての関心事。それはゴルフの全英オープン。遠く1860年プレストウイックで、産声を上げて以来、その多くが開催されてきたのは、スコットランド。そのスコットランドが、英国と分離するとしたら、厄介なことになる。

同じ18日。ゴルフの総本山、R&A(ロイヤル&エンシェント・ゴルフクラブ・セントアンドルーズ)では、260年目にしての、新しい試みが行われていた。それはクラブとしてのR&Aに、女性の会員を迎えるか否か。その選択だった。

そもそもゴルフクラブとは、男達だけのモノ。うるさい女房(失礼)から逃れ、男同士球を打ち酒を飲む場所。1975年初めて訪れたセントアンドルーズ。午後オールドコースでラウンドするのだが、その前。町で写真店を営む知人イアン・ジョイが、連れて行ってくれた先は、彼らのクラブだった。R&Aのクラブとは違う、センとアンドルーズ市内のビルの一階。私が連れて行かれ理由は、スタート前に昼食を摂るため。

ところが正午前だと言うのに、そこでは多くのメンバーが、スコッチやラガーグラス片手に、盛り上がっていた。西欧のクラブに関し、知識の浅かった私は「何だ、この人達は。午前中からアルコールを遣って?」。世界あちこちで、クラブの会員になった今では、当たり前のことと受け止められる。それにしても駆け出し記者には、驚きだった。ただし彼らはR&Aの会員である必要はない。

ゴルフが好き。だが度々出掛けることで、奥さんに遠慮がある。そう言う連中が、憂さ晴らしをする。言わば同好の士の集合場所。だからMembers Only。またはMen Only。たわいもないことなのだ。

それより何より日本でも、明治時代の政治で、女性に選挙権がなかった。それが歴史の中での、男女の立場だったのだ。R&Aとしても、260年もの歴史を持つだけに、18世紀の仕来りを引き摺って、当然だったと言える。

そして時代が変わった。ゴルフ界もそれに順応する必要。それが18日の開票だった。

投票の結果は「85%が、女性メンバー受け入れに賛成」だった。R&Aの専務理事、ピーター・ドウソンは、満面笑みを浮かべて語った。

同じ日、オールドコースの一番ティグラウンド。そこで行われた、R&A新キャプテンの、お披露目テショット。長年の伝統。今年も多くの市民が見守った。

同じ日、オールドコースの一番ティグラウンド。そこで行われた、R&A新キャプテンの、お披露目テショット。長年の伝統。今年も多くの市民が見守った。

「圧倒的な差に、誇りを感じている」。

遠い国の話。更に260年も昔(日本では宝暦4年。徳川十代家重の時代)に、発足したクラブ。それだけに、もう少し補足説明が、必要になる。そもそもR&AのAとは、Ancient。意味は昔のとか古代。オールドコースで、ボール(もしかしたら、石ころだったかも知れない)打ちが始まったのは、16世紀と言われている。それを強調する。その意味が、あったのかも知れない。

何れにしろR&Aは、1754年以来2世紀半以上。世界のゴルフ界をリードして来た。いまR&Aのメンバーは、世界中に約2400人。R&Aドウソン専務理事の話によると「そのうちの四分の三以上が投票。更にその85%以上が、賛成した」と言う。それでも、まだ十数%が「No」だったことは、意外なのだが。

そして今、刻の流れに応じ、男だけのプライベートクラブに、女性メンバーを加える決定をした。この事務的作業は、10月からになる。

同じように男だけのクラブだった、マスターズ会場の、オーガスタ・ナショナルGC。そこがアフリカ系男性に続き、2年前女性の会員を迎えた。その一人はライス元国務長官。現在スタンフォードの大学院教授だが、彼女もアフリカ系。時代はそこ迄、変化した。それがいまの21世紀なのだ。

ドウソン専務理事が、続ける。

「9月18日は、R&Aの歴史にとって、とてつもなく重要。そして前向きな記念日になった」。

日本人が知る、セントアンドルーズと言えば、オールドコース。とんでもないこと。スコットランドの首都エジンバラに近い、セントアンドルーズ。そこにはオールドコーストとは別に、更に7つのリンクスがある。リンクスとは、言う迄もなく、スコットランドでは、ゴルフ場の意味。そこでは既に、過去数十年多くの女性が、男性に混じり、または女性だけで、ゴルフを楽しんでいる。

その様な流れの中、女子のゴルフ選手権、全英女子オープンも、数年前ゴルフの聖地と言われる、オールドコースで開催された。

ゴルフは2016年。五輪種目に112年ぶりで復帰する。ニクラスたち多くの識者との共通の考え。それはゴルフの大衆化。そのための一つの方策。それは女性が、ゴルフを楽しむこと。何故なら、女性はお母さん。母親が愛好すれば、子供もゴルフに馴染む。それが理由だ。

英国のかつての名称は、大英帝国。航海術を駆使し、世界の七つの海を支配。地球上あらゆる処に、植民地を設けた。当時「大英帝国に、日の没する時ナシ」とさえ豪語したほど。その遺産が英連邦国家群。いま世界の外交ビジネス用語が英語。またゴルフが世界中に、普及した背景も、ここにある。

時を同じくして、オールドコースの、一番ティグラウンド。ここでは選ばれた、この先一年のR&Aキャプテン。彼のお披露目ティショットが行われている。例年通り、それを多くの、セントアンドルーズ市民が見守った。長年の伝統。それを残しながら、女性を会員に迎える。R&Aも、そしてゴルフ界そのものも、時代の変化に、しっかり対応している。

(Sep.22.2014)

無意味。墜ちたタイガー・ウッズの、次のコーチ論争

 中央の痩身男性が、タイガ(右)ーの2人目の、スイングコーチだったハンク・ヘイニー。マーク・オメーラ(左)は、タイガーが兄のように慕うプロ仲間。そのオメーラを、成功に導いたコーチがヘイニー。その関係で、ブッチとの関係が終わった後、タイガーとの契約に至った

中央の痩身男性が、タイガ(右)ーの2人目の、スイングコーチだったハンク・ヘイニー。マーク・オメーラ(左)は、タイガーが兄のように慕うプロ仲間。そのオメーラを、成功に導いたコーチがヘイニー。その関係で、ブッチとの関係が終わった後、タイガーとの契約に至った

ツアーに復帰したものの、痛みが再発。この夏、絶不調を続けたタイガー・ウッズ。それが理由の一つ、でもあったのだろう。2010年からスイングコーチ契約していた、カナダ人インストラクターの、ショーン・フォリイ(40歳)と解約した。プロとキャディの関係同様、ツアーの世界では、よくある話。

プロ転向時はブッチ・ハーモン。2人目のハンク・ヘイニーに続く、三代目のスイングコーチだった。
この18年。奇しくもタイガーのバッグを担いだキャディも3人。それらはフラッフこと、マイク・コーワン。二代目がスティーブ・ウイリアムズ。そして現在のジョー・ラカパ。その間に記録した米ツアー優勝は79回。勿論その中には、14箇のメジャータイトルが、含まれている。

その第一人者が、今季は獲得した賞金が、僅かに10万8275ドル。首位でシーズンを終えた、25歳マキロイの稼ぎ(828万0096ドル)と比較すると、目が眩むほど少ない。ランキングは何と201位。

3月31日腰にメスを入れた。それが理由で、マスターズと全米オープンは、出場さえできなかった。回復までに「最低でも90日の治療が必要」だったからだ。そして7月の米ツアーで復帰。続いて全英オープン、全米プロ等で合計7試合。だがタイガーらしさは、何処にも見られず。その結果として、フォリイとの決別。待ってましたとばかりに、米のスポーツマスコミは「さあ、タイガーの次のコーチは誰か?」との論争で姦しい。

結論から書くと、これはまったく無意味。それが私の判断だ。何故ならタイガーの、現在の不成績は、スイングに理由があるわけではない。体調の問題。それはゴルフ場へ行く前に、医師に相談すべきこと。もう一つある。タイガーほどゴルフに精通したプロ。彼なら、一々インストラクターを必要とせず、自分の脳内に蓄積した、知識で充分処置できるとの判断だ。

まず一つ目の話。タイガーの栄光の歴史は、同時にケガの繰り返しでもあった。幸運にも私は、1997年3月末。週刊文春で2週連続、4頁寄稿する機会を得た。その約半年前スタンフォードを2年で中退して、プロ転向していたタイガー。当時としては、破格の70億円契約金。登場した超スーパー新人に、編集部白幡デスクが、関心を示してくれた。その結果だった。

期待通り、タイガーは翌週のマスターズで、初のメジャータイトルを、掌中に収める。それも2位カイトに、12打差を付ける圧勝。圧巻だったのは、池越えのパー5,15番。かつて青木功が、レイアップ(刻む)してバーディを取った時。拍手がマバラだった名物ホール。そこで21歳は、第二打を何と、ピッチングウエッジで打っている。スコア的な強さだけでなく、この飛距離に、世界は驚愕した。

タイガーと彼の両親を、私に紹介してくれたのは、加州のプロ、スティーブ・クック。タイガーがまだ中学生の時。

それ迄スティーブは「アフリカ系だが、騙されたと思って、一度会ったらいい。とんでもない逸材なのだから」と、繰り返し私に、助言してくれていた。そのお陰で、タイガーが中学生の時から取材して来た幸運。25年前のこと。まさかアフリカ系の子供が、その後世界のゴルフ界を、リードすることなど、誰も考えない時代だった。

その後タイガーは、順調に成功の階段を登る。財産一つは類い希な飛距離。それを産んだのは、超高速のスイング。処がこれが、両刃の剣だった。スティーブが早くから危惧していたのは、この部分だった。

「タイガーのスイングは、強くて高速。その力を受け止めるのは左膝。その部分の負担が、他の誰よりも大きい。その結果として、遠からず左膝が痛み出す可能性」。それがスティーブの危惧だった。スティーブの読みは的中する。タイガーはその後、大学時代を含め、4たび膝にメスを入れる。08年の全米オープンで優勝した。その時は膝の痛みを、堪えながらのものだった。

その後は、痛みが膝だけに留まらない。足首、腰から背中へと広まる。そして今年3月31日。マスターズ直前に突然の手術。そして現在の、不振に繋がっている。だから、いまタイガーに関し、次のスイングコーチの話をしても、意味がないことなのだ。

スイングコーチに関し、別の考え方もある。クリス・ディマルコは、05年マスターズで、最後までタイガーと、グリーンジャケットを争ったプロ。彼の持論は、こうだ。

「米ツアーは、世界最強のツアー。そこで僕たちは中心的な存在。それ程の技術を持つ我々が、衆人環視の中で、何故コーチと称する人間の、教えを受けなければならないのか」。

その逆はミケルソン。彼はスイング全体はブッチ。ショートゲームとパットは、デーブ・ペルツ。更にここ数年に限っては、かつての強豪プロ、デーブ・ストックトンの教えを得ている。

ディマルコ、ミケルソン。それぞれの言い分に必然性はある。例えば他の職業でも、物事の判断をする時に、相談する相手は必要。それと同じかも知れない。

ジャック・ニクラスの、最後のメジャータイトル。それは彼が46歳の時のマスターズだった。その結果、彼の獲得メジャータイトルは、18箇に達した。一方のタイガーは、この12月で39歳になる。彼が背負った薪は、ほぼ燃え尽きた。それが私の受け止め方だ。

そのかつてのスーパースターの、次のコーチの話。それはだから、まったく無意味でしかないことが判る。(Sep.15.2014)

いま日本が学ぶもの。それはライダーカップの熱狂と、話題作りだ

 欧米両チームのキャプテン。左が米ワトソン。右が欧州マッギンレイ。今月28日の終了まで、彼ら2人の一挙手一投足が、欧米の新聞テレビを賑わす。それはライダーカップが、次々話題を繰り出すからだ(photo courtesy of Global Golf Post)

欧米両チームのキャプテン。左が米ワトソン。右が欧州マッギンレイ。今月28日の終了まで、彼ら2人の一挙手一投足が、欧米の新聞テレビを賑わす。それはライダーカップが、次々話題を繰り出すからだ(photo courtesy of Global Golf Post)

このところ日本でも、人気が高まっている、ライダーカップ。1927年から続く、欧米(初期は英米対抗。1973年からは、英アイルランド連合vs米国。更に1979年欧州vs米国に拡大した)対抗試合。二年に一度の大舞台は、今回今月最終週、スコットランドの有名なグレンイーグルスで、行われる。ブレア政権時代の2005年。ここはG8サミットの会場にもなった施設。スコットランドを代表する、高級リゾートだ。

両チーム12人。両軍合わせ、僅か24人。超エリートの、まさにゴルフ界最大のスポーツショー。両サイドとも、9人はライダーカップ得点で、自動的に選ばれる。ちなみに米のトップは、マスターズ優勝のバッバ・ワトソン。欧州の一位は、今年2つのメジャータイトルを、掌中に収めた、25歳マキロイ。

キャプテン推薦は、得点こそ上位でなかったが、現時点で勝つために、キャプテンが「絶対に必要とする戦力」を選べるシステム。米のキャプテン、トム・ワトソンは、その3人にハンター・メイハン、キーガン・ブラッドリー。そしてウエブ・シンプソンを選考。一方欧州のキャプテン、ポール・マッギンリーは、ガラハー、ポールター。そして42歳の英国人、リー・ウエストウッドを選んだ。

勝つために両キャプテンが、重視するのは各プロの経験。ウエストウッドは、これ迄何度も、四大タイトルにニアミスして来た。それとは別に、世界ランク1位にも登り詰めた。その時はタイガーを、蹴落としてのものだった。またライダーカップは、1997年以来、これ迄8連続出場。そのうち六度、欧州の勝利に貢献している。これは大きな切り札になるはず。

そのライダーカップ、商売が実に巧みだ。競技そのものは、僅か3日。金土曜は午前と午後合わせても、僅か8マッチ。フォーマットは、フォアボールとフォアサム。これ日本では馴染みが薄い。だがこの双方とも、キャプテンの采配の妙が、随所に発揮される。まさにライダーカップの華と言える。

ライダーカップの主役は数万の観客。彼らは最初のマッチ開始の、1時間以上も前から会場を埋め尽くす。今年の場合だと、緯度の高いスコットランドで9月最終週。そこで競技開始の1時間前は、まだ薄暗い。それにも拘わらず巨大な国旗を振り、足を踏み鳴らして応援歌を続ける。そして日曜日のシングルス12マッチで決着。3日間僅か28マッチのドラマに、観客の熱狂は頂点に達する。

もちろん週前半、木曜日までは連日セレモニーが続く。そこでも万余の観客に、大きな満足を与える。

更にその前、例えば9月2日に行われた、両軍のキャプテン推薦選手の発表。これだけでも欧米の、マスコミは巨大な報道をする。それに備えるため、主催者は1年以上も前から、入場券を販売する。またデザインの優秀さもあり、記念品が飛ぶように売れる。まさに商売上手。それより前、2年前の冬。ワトソンのキャプテン就任は、米三大ネットの一つ、NBCの朝のニュース番組。そこにワトソンが、生出演して行われている。

実は日本でも、これを真似たイベントが、実施されている。それらは欧州との対抗、ロイヤルトロフィーとか日韓戦。だがこれら、実際はテレビマッチ程度のもの。それでもツアー機構は「アジアと欧州の、ライダーカップ」と騒ぐ。彼らライダーカップの実体を、何処まで理解把握しているのか。ろくに見たこともないモノを、とやかく言うのはプラスにならない。

マーク・マコーマック氏は、1960年に初のマネジメント会社、IMGを立ち上げた、スポーツビジネス史の功労者。彼が次のようなことを言っていた。

「毎週同じような、ストロークプレーの、ゴルフでは飽きられる。時々マッチプレー。そして男女のミックスチーム戦。これなども観客に喜ばれるはず」。

1960年代、彼はパーマー、ニクラス、ゲイリー・プレーヤーのビッグ3を形成。世界をツアー。日本にも立ち寄った。ロンドンのウエントワースで、長いこと実施されていた、世界マッチプレー選手権。これもマコーマック氏の仕掛けだった。

翻って日本のプロツアー。最近の情報に拠ると「来年消えるトーナメントがある。それも複数の可能性」と言う。プロ達に人気がない。更にアジアのプロ達が、日本人プロを凌駕する毎週。もしかして男子ツアーは、20試合を切ることへの危惧。その危機を乗り切るカギは、観客やテレビ桟敷に、熱狂を伝えること。そのお手本が、今月最終週のライダーカップなのだ。

私が初めて取材したライダーカップは1989年。英国ベルフリー。その後も1991年のキーワー島オーシャンコース。1997年のスペイン。更に1999年のボストン等、日本では原稿も写真も、売れない競技の取材に、繰り返し出掛けた。然し振り返ると、ライダーカップほど、カメラのシャッターを、多く押したイベントはない。プロのフォトジャーナリストが、熱狂させられる被写体。これは一般のファンをも、間違いなく虜にするはずだ。

(Sep.08.2014)

ペブルビーチを連破。Pacific Dunes再度人気一位に

ザ・プレーヤーズの舞台、TPCソウグラスを筆頭に、ピート・ダイ設計のコースも、負けず劣らず人気だ。左は筆者

ザ・プレーヤーズの舞台、TPCソウグラスを筆頭に、ピート・ダイ設計のコースも、負けず劣らず人気だ。左は筆者

約1万7千のゴルフ場がある米国は、パブリックコース天国でもある。その多くは二、三十ドルで遊べる市営、郡営(時に州営)の施設。それに薄暮や学割、高齢者割引が加わるから、料金はドンドン安くなる。

一方で企業が持つパブリックコース。これは値が張る。最も高額なのはペブルビーチ。シーズンによって多少の違いはある。それでも495ドルから530ドル。ここの強みはアウティング(企業ぐるみのコンペ)が、一年先まで埋まっている人気。多くの場合は高額のロッジに宿泊。そして翌日ゴルフを楽しむ。超リッチな気分になれる。更にあのロゴの、マーチャンダイズが、年間12億円以上捌ける。圧倒的な存在だ。

これに続くのが5百ドル。これらは共にラスベガスのコース。シャドークリークと、ウイン・ラスベガス。料金はともに5百ドル。設計者は双方ともトム・ファジオ。さらにザ・プレーヤーズの舞台TPCソウグラス。ここは米ツアーの本拠地としても知られる。495ドル(夏のオフシーズンは300ドル)。6月の全米オープンで、日本での認知度が、急騰したパインハーストNo.2。ここが450ドル(夏期は370ドル)で続く。

太平洋北西部とは、加州の北に位置する、オレゴンとワシントン両州。ついこの間まで、ゴルフで注目されることはなかった。とは言え、加州の北だから、沖を流れるのは寒流。加えて海岸線は、ずっと砂地デューンズ。条件としてはゴルフの歴史を持つ、スコットランドや、アイルランドに、似た素材を揃える。

オレゴン州バンドンは、そんな中でもゴルフ場に最適の立地。そこで2001年に開場した新設が、パシフィック・デューンズ(Pacific Dunes)。設計者は、玄人好みのコースを造るトム・ドーク。SI(スポーツイラストレーテッド誌。編集責任はジョー・パソブ記者)が2年に一度実施する、それらパブリックコースのアクセス・ランキング。そこで僅差ながら、再度ペブルビーチを下し、今年一位を守った。

ちなみに二度連続2位はペブルビーチ。有料道路17マイルドライブが走る、超高級宅地。その白波砕ける海岸線に、サイプレスポイントに並んでの立地。そんなことで、日本人にも超の字の付く人気。一方で2010年全米オープン。この時は「舞台がペブルビーチ」と言う理由で、予選のエントリー数が、史上最多を更新している。またこの2年で、9番、10番のフェアウエイを、より海側に近付ける等の、緻密な改造も重ねてきた。何処から見ても、大衆ゴルファー憧れのコース。そのペブルビーチを、またしても破ったのが、パシフィック・デューンズだった。

ゴルフでは、よく「日本の常識は、世界の非常識」と言われる。代表的なのが、ゴルフ場の名称。日本の場合、その多くが、いわゆるカントリークラブ。実はこの名称、緑したたる田舎に、ゴルフ、乗馬、テニス、水泳(英国だとこれに狐狩りの森が加わる。全米オープンの1898年の開催コースは、そんな伝統を引き継いだMyopia Hunt(狩猟) Clubマサチューセッツ州だった)を揃えた施設。

もう一つの位置付け。多くのカントリークラブは、それとは別に、街中にシティクラブを所有。週日はそこを拠点に活動。その疲れを癒やす。その目的で週末、家族と過ごす場所。それがカントリークラブ。当然メンバーと、そのゲストに限定される。それに比べ日本のカントリークラブ。これは大多数が、メンバーと一緒でなくとも、ラウンドが可能な、パブリックオープン。「このゴルフ場は、予約できません」と堂々謳っているゴルフ場は、日本では恐らく軽井沢ゴルフ倶楽部くらいなモノ。

それに比べ、例えば米国は、カントリークラブで、顔も知らないビジターが、メンバーに同伴されることなく、プレーすることは不可能。もっと言えば、コースの敷地内にさえ入れない。それがカントリークラブの姿勢でありシステム。要するに「Private Only」または「Members Only」。それがクラブなのだ。海外の。

繰り返すが米国の場合、約1万7千コースの6割以上が、パブリック・オープンしている。パブリック・コースの別な説明は「Daily fee course」。日々の入場者。その支払いでコースの、維持運営を賄うシステム。勿論それを大別すると、前述したように、公営と企業所有の、2つのパブリックに分かれる。日本人が漠然と描く「米のパブリックコースは廉価」の印象。それは多くの場合、公営のパブリックコースの話になる。

その料金システムがあるから、米でゴルフは「郵便配達夫から、大統領迄が楽しむ、大衆のスポーツ」としての認識に、大きな根が生えているのだ。

其れが理由で、例えばオーガスタ・ナショナルGCは、メンバーとゲスト以外、ゲートさえ通過できない。だが心配無用。大衆が憧れる多くの有名コースが、そんなことで「Daily fee course」として、一般消費者のプレーを可能にしている。要するに誰でもプレー出来るコースが、全米に点在する。それらはパシフィック・デューンズと、ペブルビーチだけに留まらない。ニューヨークのベスページ(ブラック)。アリゾナのトルーン及びトルーン・ノース。ヒルトンヘッドの名勝ハーバータウンGC(サウスカロライナ)迄。

私の何人もの友人。彼らは新婚旅行の途中。これらのコースで、思い出のゴルフを、満喫している。ゴルフ場側も、それを祝福する。海外のゴルフとは、そこ迄の幅の広さがある。それを可能にしているのは、繰り返すが、多くの有名Daily fee courseの存在なのだ。

パシフィック・デューンズの料金は295ドル(冬期は75ドル)。ペブルビーチに比べたら半額に近い。歴史そして施設の違いからしたら、当然の値段の差。それでも僅か十数年の、新参パシフィック・デューンズが、一位を死守した結果は、評価されるべきだ。

余談だが、世界、そして全米のコースランキング(トップ百)で、ここ数十年、首位を保つのがパインバレー。ペンシルベニア州フィラデルフィアの郊外。ここはマスターズの会場、オーガスタ・ナショナルGCに並ぶ、プライベートクラブの雄。コースとして、それに匹敵するのがペブルビーチ。その牙城を揺るがす、新設コースが登場した。海外のゴルフに対する認識。そして設計者の能力は、どんどん進化している。