昨年の5月20日。松山英樹は、私たちの、日本外国特派員協会に招かれている。伝統のProfessional Luncheon。午餐をしながらの記者会見。
それより前、彼は4月2日にプロ転向。その後10位タイ、優勝(つるやオープン)2位、2位タイ、優勝(三菱ダイアモンド)。センセーショナルなデビュー。さらに、この直後メリオンへ旅発つ。全米オープン(10位タイ)、全英オープン(6位タイ)に出場する。タイトな時間を裂いての来場だった。
日程調整のため、東北福祉大の阿部監督と連絡。最終打ち合わせは、日本プロ選手権会場の、千葉県総武CC。
その上で、特派員協会の報道委員会に提出した、私の企画は一度否決されている。理由は簡単。「時期尚早。有名かも知れないが、それは日本だけの話。私たち外国人記者には..」。それが理由だった。
其処で私が追加した説明。それは「この若者は、ゴルフ界のゴジラ松井、そしてイチローになる逸材。有名になる前に、是非取材しておこう」だった。特に米国の記者が、心を動かしてくれた。
当日は百人を超す記者及びゲストが、席を埋めた。質問の幾つかは、ゴルフでなく、彼も被害者の一人だった、東北大震災に関するもの。その時の特派員協会会長も「何度も取材に出掛けた。あの光景を思い浮かべると、いまでも胸が痛む」と、松山に切々と話していた。
特派員協会のゲストスピーカーは、主に政治、外交、経済などの分野での時の人。今年一月は、主要都知事候補。その後は辺野古への基地移設に反対する、稲嶺進名護市長。続いてウクライナの特命全権大使。この時はロシアの攻勢が急だったことで、会場全体が緊迫。特に欧州の記者たちの質問は、真剣だった。
そんな中、スポーツの時の人も、招かれる。ゴルフではジャンボ尾崎、宮里藍、そして石川遼。前者2人は私がコーディネートしたが、遼の時は動かなかった。判断理由。それこそ「遼は時期尚早」。更なる理由は、彼はヒーローでなく、スポーツのアイドル。それだった。それでも遼の時は、松山の倍、二百人が席を埋めた。話題性があることで、記事にし易かった。それが理由だった。
松井はワールドシリーズのMVPに輝いた。イチローは、あらゆる記録と話題を、樹立し続けている。一方の松山は、世界ランクの上位が、メジャーに匹敵するほど勢揃いしたメモリアルでの優勝。とは言え、米ツアーの一勝では、ゴジラもイチローも、まだ遠い存在。
それでも最終日を、世界ランク一位スコットと同組。先行していたマスターズ2勝のワトソンを逆転。それをメジャー18勝の、帝王ニクラスの、お膝元で演じた。豊かな将来を、感じさせるに、充分な内容だった。
ネットにしろ活字にしろ、私の記事は米男子ツアーHQなど、海外の組織も英訳し目を通している。先週このコラムに寄稿した「帝王ニクラスの城下町。メモリアルのコロンバス」。これへの感想が、1日夜(日本時間)米ツアーHQから届いている。その折り「英樹が優勝する様だと、米ツアーのワールドツアー化は、さらに確固たるものになる」とのコメントが付いていた。
今朝は多くの日本人が、早起きしてテレビ観戦した。その中で、知人から多数の感想が寄せられた。
「難度の高い、ミュアフィールド・ビレッジGCで勝つなんて、メジャーでの勝利に匹敵する。米ツアーは格好いいし、テレビ観戦していて楽しい」。これが多数。
「松山が日本ツアーにいるより、日本のゴルフ界への効果は絶大」。この声も多かった。
これらを総合すると、日本の男子ツアーは、この6月1日を境に、間違いなく世界の超二流に、落ちたことが判る。ただし、それは競技者という人材を育ててこなかったことのツケ。これからでも遅くない。松山、遼に続き、米ツアーに関心を抱き、国際舞台で活動する若者を、着実に育成する。そのシステムを確立することだ。例えばスウェーデンや英国、スペインの様に。その時、日本の男子ツアーは、改めて見直されることになる。
そして最大の関心事。松山の世界ランクが、今し方発表された。メモリアルが始まった時は24位。それが10人ゴボウ抜きして13位。負かした相手が、世界ランク一位スコット。マスターズ2勝のワトソン。さらにマキロイも、ミケルソンもいた。当然のことだった。
かつて世界ランクの日本人の最高位は、ジャンボ尾崎の8位だった。この先順調に行けば、ジャンボの記録を更新することも、可能になる。日本人ファンの、夢は膨らむ一方だ。
さらに賞金ランクも、二百万ドルの大台を突破(2、283、868ドル)。16位に躍り出た。
そして迎える再来週の全米オープン。舞台はドナルド・ロスの傑作、パインハーストNo.2コース。
それを前に、旧知の一人から、貴重なコメントが届いた。
「米ツアーでの初優勝が、プレーオフだった。それも16番でダブルを叩いた末の。苦戦ではあったが、楽勝でなかったことは、松山にとって、今後への財産になった」。
勝って兜の緒を締めよ、か。実力は勿論だが、この22歳は、間違いなく運も強い。
(June.2nd.2014)