さあ全米オープン。今週の主役は、亡きペイン・スチュアートだ

Bob Jones Award Announcement

今年2月。パインハーストNo.2コースで、ペイン・スチュアートへの、 ジョーンズ賞授与を発表する、USGA(米国ゴルフ協会)のトーマス・ オトール会長

今年の全米オープンは、話題満載だ。

まずタイガーが、4月のマスターズに続き、連続のメジャー欠場。一方で昨年メリオンで、6度目の2位に終わったミケルソンの、初優勝への期待。

舞台は、ドーノック(スコットランド)育ちの名手ドナルド・ロスの傑作、パインハーストNo.2コース。一箇所に8つのコースを持つ。ここの象徴は、可愛らしいパターボーイの銅像。

そこで今年は、男女の全米オープンを、2週連続して開催する。冒険と思えること。全米オープンのプレーオフは、翌月曜日。新たな18ホールで行われる。その場合、全米女子オープン出場選手達の、練習ラウンドが妨げられる。それ以上の心配。それは低気圧の通過。これによって競技が遅れると、男子の全米オープン終了が、火曜日にずれ込む可能性がある。

日本のテレビ桟敷にとっての、最大関心はメモリアルで優勝した、松山の動向になる。

松山は昨年も、メリオン(全米オープン)10位。ミュアフィールド(全英オープン)6位を記録している。基本的には、子供の頃から、滅茶苦茶上手かったパット。それに加え、ショットのクオリティも向上している。その結果昨年の全米オープン。週初めから悪天候に見舞われた中。ダブルを2箇しか打っていない。この才能があるから、セッティングの厳しい、メジャーの舞台でも、好成績を残せる。

その組み合わせと、スタート時間(木、金曜日)が、手際よく先週金曜日発表されている。

話題の競技者の多くは、一番、10番スタートに、上手く振り分けされている。

まずミケルソンは、10番から7時51分。同組の競技者は、昨年優勝のローズ。そして全英オープンでベストアマの、マシュー・フィッツパトリック。松山はその2組後の8時13分。同組は、4月のマスターズで、第3ラウンド首位に立った20歳のジョーダン・スピース。そして母親が日本人の、リッキー・ファウラー。この2組を相前後して追える。観客には嬉しいペアリング。

第一ラウンド一番スタートの組は、目下世界ランク2位のステンソンが7時29分。同組の一人は、もう一歩のところで、四大タイトルを、逃し続けている41歳ウエストウッド。

続く7時40分は、マキロイ、マクドウエルの、北アイルランド勢と、米のシンプソン。3人とも歴代全米オープン勝者。

同じ木曜日一番スタート。午後1時25分に、観客にとっての大きな目玉。マスターズ2勝ワトソン、世界ランク一位スコットの同組対決。

これだけの顔触れが揃う。それでも今回の全米オープンの主役は、ペイン・スチュアートなのだ。

1999年の全米オープンも、No.2コースだった。この時28歳のミケルソンは、最終ラウンド、自家用ジェット機を、スタンバイさせて、一番ティグラウンドに立った。愛妻エイミーの初出産と重なっていた。

「妻の陣痛が始まったら、僕は何時でも競技を棄権。出産に立ち会いたい」。そのためだった。幸運にも出産は数日遅れた。その時、ミケルソンを抑え、2度目の全米オープン優勝を果たしたのがペイン。優勝決定直後18番グリーン上。若いミケルソンの頬に、両手を当て何やら話し掛けるペイン。兄が弟に諭すような仕草。その光景を私は、今でも鮮明に記憶している。

その年の9月には、ボストンでライダーカップもあった。この時が、ペインの姿を見る最後になることなど、私は考えてもみないことだった。二ヶ月後の10月25日。チャーターしたジェット機が、ツアー選手権会場へ向かう途中で墜落。帰らぬ人となったのだ。享年42歳だった。

ペインは何しろ華があった。ニッカボッカとハンチングのファッションは、誰も真似の出来ないもの。1991年の全米オープン。星条旗をデザインしたシャツを着こなせたのは、この男しかいなかった。
通算11勝(他に日本など米以外で7勝)のうちの三つがメジャー。競技者としても一級だった。翌2000年の全米オープンは、ペブルビーチ。ここで水曜日。カーメル湾に面した18番ホールで、プロ仲間18人による、追悼のショットが行われた。ペインが多くの人々の心の中で、生きていることの証だった。

そして99年の全米オープンから15年後の今年。それを記念し全米オープンは、ペインの思い出が、タップリ詰まった、パインハーストNo.2コースに戻ってきたのだ。それも単純なシナリオではない。

ボビー・ジョーンズは、1930年の年間四冠王。そしてマスターズの創始者。1955年から続くジョーンズ賞は、プロアマを問わず、ゴルフ界に貢献したことに対して贈られるもの。受賞者の中には、ブッシュ元大統領(父親)も含まれている。米国最大の権威あるその賞を、亡きペインに贈る。その発表が、この2月行われている。ソチ五輪の真っ只中だった。セレモニーは今週水曜日。場所は勿論No.2コースだ。

ところで全米オープンは、大変な数の入場者を数える。その最高記録は38万7045人。パインハースト(2005年)で記録されたモノ。それらの収入は、世界各国での、ゴルフ普及に投入される。その結果の一つ。それが2016年リオで、112年ぶりで、ゴルフが五輪種目に復帰したこと。

参考にならない比較だが、日本オープンの入場者。昨年は4日間で8127人。スポーツ観戦のファンが求めるモノ。それは熱狂。日本オープンのチラホラの観客では、興奮のしようがない。

その大観客を、呼び込む一番の主役が、今週の全米オープンでは亡きペイン。決して無理な論法ではない。そして、あの時28歳の紅顔だったミケルソンも、今月中に44歳になる。米国人の彼が、もし念願の、母国のナショナルOpen選手権を獲った時。天国のペインが、微笑んで祝福するに違いない。

「フィル、遂に獲れたな。お目出度う」と言って。

大衆がスポーツに求めるモノ。それは歴史を飾った主役達への関心と、その中で発見できるロマン。不慮の死を遂げたが、ペイン・スチュアートは、いまも人々の心の中で、生きている。

(June.09.2014)