パインハーストNo.2が見せた、ゴルフ場(捨て地)の発想

荒涼とした捨て地を造ることで、フェアウエイの存在を際立させるクーア、クレンショウの手法。この絵はパインハーストNo.2コースの7番ホール(courtesy by USGA)。2人の代 表作は、ネブラスカ州のサンドヒルズ。10年ほど前のこと。そのサンドヒルズ一箇所を取材、そしてラウンドするため、私はシカゴから、往復2800キロをドライブした。行った甲斐 があった。取材者として、多くの収穫と満足を得られた。

日本語にすると、オヒシバに近い種類。強い茎と葉を有することで、英語名はワイアグラス。それがフェアウエイ左右の、砂地にタップリ植えられている。カメラマンには、絵になる被写体。だが競技者には、苦労を強いる。

全米オープン会場は、ほぼ毎回改造される。今回パインハーストNo.2コースは、ビル・クーアと、ベン・クレンショウの、売れっ子コンビが手掛けた。2人の最高傑作は、ネブラスカ州のサンドヒルズ。彼らとUSGA(米国ゴルフ協会)の狙いは、ドナルド・ロス設計の頃の姿に、戻す作業。パインハーストNo.コースが、開場したのは1907年。20世紀の初頭のこと。この頃の作品は、総じてアーリーアメリカンと呼ばれる。米国初期のコース。それはスコットランドの伝統が、より色濃く残っていたこと。その一つは、コースの荒々しさだ。

この砂地は、必ずしもバンカーではない。いわゆるWaste erea。捨て地。その場合は、だからクラブをソールしても構わない。

2010年の全米プロ選手権。場所はウィッスリング・ストレイト(ウイスコンシン州)。この時優勝を目前にしていた、ダスティン・ジョンソン。彼がルールに抵触し罰打。それで勝ちが、今回優勝のカイマーに、転がり込んだ経緯がある。

ピート・ダイ夫婦の手による、この新設コースは、捨て地が多く設けられていた。ジョンソンの罰打は、捨て地とバンカーを、勘違いした結果の不運だった。

 

私が打っているのは青マーク。その前方は白、赤などのティグラウンド。散水が必要なのは、これらの部分とグリーンだけ。ちなみにグリーン左。半分岩に、隠れているいるのがバンカー。コースの名前は、スコッツデールのエスタンシア。これもファジオの設計

前述のような目的以外にも、Waste erea捨て地の活用は多岐。最も多用しているのは、アリゾナやベガスのゴルフ場。この辺りは乾燥した、半砂漠地帯。また少ない草木を保護する。そのため、辺り一面に芝を張ることはしない。

例えば、ティグラウンドの先、八十から百ヤードは、芝を張らない。それによって、自然をより多く残せる。ティショットで、この距離を超せない成人男性ゴルファーは希。一方でパー3ホール。ここではティグラウンドと、グリーンの他は、極力自然を残す。グリーンを外せば砂地だが、そこはバンカーではないから、クラブはソール出来る。渡米して直ぐの頃、私も戸惑った。アリゾナでは、この状態をWaste bunkerと言う。ソールは出来る。だが小石が転がっている砂地。そこからショットをすれば、クラブは傷む。そこでアリゾナの仲間に教えられたこと。それが(ロックアイアン)だった。

砂地から打って、傷が付いても構わない、数ドルの安いアイアンを、バッグに入れる。そうすると15本になるが、アリゾナのゴルファー達は、お互い暗黙のうちに了解しあっている。

パインハーストNo.2コースとは、異なる景観だが、これが、他でも見られる、捨て地の効用。

実はこの捨て地。21世紀のゴルフ場造りの、原点でもあるのだ。

トム・ファジオは、世界をリードする、コース設計者の一人。マスターズの舞台、オーガスタ・ナショナルGCの、改造責任者は彼。また2020年五輪のため、目下のところ開催コースに内定している、霞ヶ関CC。ここもファジオが、指揮をしているはずだ。

1987年の全米プロ選手権は、フロリダのPGAナショナル。ファジオの(ウオーターフロント・オフィス)は、その近く。当時売り出し中の若手設計家。週初めの午前、アポを取ってインタビューした。

流石は当代の売れっ子。興味ある話が、次々出てきた。

私の最後の質問は「21世紀に求められる、ゴルフコースとは?」。それに対しファジオは、ズバッと言い切った。
「大前提は、水の使用量を少なく抑える。その発想。関連するが、低管理コスト。それは廉価なプレー料金に結び付き、ゴルフの大衆化を加速する」。

同じ頃、一部日本の設計者は(アンデュレーションを誤解)。グリーンやフェアウエイのうねりの代わりに、ラフに小さなマウンド群を造った。それによって「スコットランドの雰囲気を出した」と本人は自賛した。だが小さな無数のマウンドは、機械で芝刈りができない。勢い手仕事になり、管理費は嵩む。時代に逆行する、大間違いだった。

ロン・シラクは米ゴルフダイジェストのコラムニスト。個人的には、取材先の宿舎のバーでの、飲み仲間でもある。当たり前のことだが「いまや水の値段は、石油に匹敵すると言ってもいい」。これが彼の持論。人口の増加。そして地球各地での紛争。その都度水資源が取り沙汰される。

ゴルフ場の捨て地。それは使用する水を抑える。同時に管理費を下げる。一石二鳥になることが判る。

かつてバブルの頃まで、日本のゴルフは、緑の待合だった。当時は水に対する危機感もなかった。接待客を持てなすためなら、余分な支出は当然だった。いまでは考えられないこと。世の中が変わったのだ。そんな時代に見せたのが、パインハーストNo.2の、あの荒々しさだった。ゴルフは時に、それに雨と風が加わる。基本的には、タフな遊びであり競技なのだ。

経営のスリム化は、どの業種でも常に必要な努力。使用する水を少なくする。コース管理費を抑える。その目的のため、日本のコースも、ティグラウンドから(百ヤード前後まで)は芝を取り除く。もしかして、そのための改造が必要。そんな要望が到来している。パインハーストNo.2コースの光景。それは時代の変化への、一つの示唆だった、と私は受け止めている。

(June.16.2014)