マイアミは世界の避寒地。フロリダ半島のほぼ南端。亜熱帯の気候は、時折とんでもない、突風をもたらす。
共和党の大統領候補ドナルド・トランプが所有するドラル。ここには広大な2400エーカーの土地に、4つの18ホールがある。それぞれに魅力的な名前。トーナメントの舞台、ブルーモンスターの他は、Golden Palm、Silver Fox、Red Tiger。
この写真の通り、ブルーモンスターは、静かな時は美しい。其処へひとたび強風が吹くと、とんでもない牙を剥き出す。その時かつてのニクラス、ノーマンから、ここ十年のタイガー、ミケルソン迄が、碧い悪魔と化したコース中の、無数の池と格闘して来た。それが観客を。更にTV桟敷を熱狂させた。それ故の名称ブルーモンスターなのだ。
筆者がゴルフ取材を始めた1974年。ここが舞台のツアー競技は、ドラル・イースタン・オープンだった。当時アメリカン、UA、デルタと並ぶ四大航空会社の一つ、イースタン航空。名称に地域性と個性があった。
私たちメディア、大きな割引料金で宿泊。月曜日は無料のラウンドを提供された。
米国人は、国籍に関係なく、入って行く人間に好意的。私は多くに指導を戴いた。その中でも報道記者として、強い影響を受けたのは2人。ケイ・ケスラーとゴードン・ホワイト。ケイは10歳だったニクラスが、その後生涯の師となる、グラウトとの出会い。それを記事にした伝説の物書き。
ゴードンは、ニューヨーク・タイムズの看板ゴルフ記者。同じ便で移動すると、気づいた乗客が「ミスター・ホワイト。サインを戴いて宜しいですか」と話し掛けたほど。有名コースでのラウンドに、日本からの駆け出し記者を、積極的に誘ってくれ、記者の心得を教えてくれた。
その一つは「コースを知らなければ記事は書けない。だから無料の好意を受けていい。だが其処まで。もし飲食する時は、必ず自腹で」。
ドラル初取材の時。月曜日ゴードンとラウンドすることになった。その前日迄も強風はなく、蒼い悪魔は本性を見せていなかった。
若く知識も少ない私は「当然のことながらブルーで」。朝食をしながらその話をしたら、ゴードンは無言で首を横に振った。彼は既に池の少ないGolden Palmの、ティタイムを押さえていたのだ。
「デュークな、ブルーの18ホールは、彼らツアープロ達の舞台なのだ。私たちには到底手が出ないコース。その現実を素直に受け止める。言わば畏敬の念を抱く。それが大切では」。
半島全体が湿地帯のフロリダ。この辺りコースの多くは、池を掘るのでなく、土量を動かして造ったホールの間は湿地を残す。ピート・ダイ設計のTPCソウグラス。半島の根本ジャクソンビルの近くだが、立地は似たようなモノ。ここも月曜日は私たちに開放してくれる。その時1ダース以上ロストする記者カメラも。出る冗談は何時も同じ。「池の水位が上がるぞ」。
ソウグラスは、酷く曲げなければ芝がある。オーガスタ・ナショナルにしても、何とか前進出来る。その点ブルーは、池越えのショットが続く。数年前、池に打ち込んだマキロイが、そのままアイアンも、放り入れた。時に世界ランク一位でさえも、苦戦する舞台。だから蒼い悪魔なのだ。ゴードンの教訓の正しさ。キャデラック選手権の度に、実感させられる。
(Mar.14.2016)