終わったばかりの全米プロ選手権。火曜日。舞台のウイスリング・ストレイツ2番ホール(パー5)で実施された、ロングドライブコンテスト。アニルバン・ラヒリは327ヤードを記録。堂々の一位を勝ち取った。日本の場合だと、30万円とかの賞金が贈られ、それは個人の懐に消える。
流石は99回の歴史を誇る全米プロ。出す賞が洒落ていた。
賞金は、彼の名前での、2万5千ドル相当の寄付行為。その団体を指定すると、主催のPGAオブ・アメリカが、指定されたチャリティ団体に、同額の小切手を送る。
今回ラヒリが指定した先は、アメリカンレイク退役軍人ゴルフコース。ワシントン州タコマの9ホールのゴルフ施設。イラクやアフガンで身体を損傷した退役軍人。彼らのリハビリのための専用施設。ここはまたジャック・ニクラスが、設計を奉仕で引き受けている処。ラヒリが獲得した2万5千ドルはそこへ送られた。
一億円以上の優勝賞金を手に出来る米ツアー。そのチャンスがある彼らにとって、2万5千ドルは、懐に仕舞い込む必要のない額。それに代わりラヒリには、金色に輝くマネークリップが、PGAオブ・アメリカから贈られた。
ツアープロは世界を旅する職業。その時小銭を挟むマネークリップは、重要な小道具。誰もが「それ、ナニ?」と関心を持つ。自己顕示の絶好の小道具。2015年ドラコン王。生涯付いて回るこの名誉が、この小さなクリップで、誰にでも分かって貰えることだ。
話は設計者ニクラス。彼は全米プロ選手権で、最多の5度優勝。それ以外でも36度の出場で、12度のトップ10フィニッシュを記録している。帝王ニクラスの強さを、まざまざと示す数字。そのうちの一度は1963年。この時もドライビング・コンテストは実施されている。勝者は言わずもがなニクラス。
驚くのは、彼が飛ばした距離だ。当時の用具は、ドライバーもボールも、現在と比較して、遥かに飛ばない、パーシモンと糸巻きボールの時代。52年前のこと。その時ニクラスが記録した数字。それは341ヤード17インチだった。今回156人の中で、一番飛ばしたラヒリを、14ヤード、アウトドライブしている。
果たして今回の全米プロ選手権。その出場者が、52年前の糸巻きボールを、パーシモンウッドで打ったら、どんな飛距離が計測出来ただろうか。興味は尽きない。
ちなみにニクラスが勝利した全米プロ選手権の舞台。それらは1963年(ダラス・アスレティッククラブ)、1971年(PGAナショナル〕、1973年(カンタベリー)、1975年(ファイアストン南コース)そして1980年(オークヒル〕、何れも名コースばかりだった。
ここに添付した写真は、その中でも初優勝した52年前のモノ。モノクロの写真が、時代を感じさせる。偶然だが同じ1963年11月22日、ケネディが暗殺されている。そんな時代に、それほど飛ばしていた。ニクラスは強くて当然だったのだ
話はラヒリの2万5千ドルに戻る。それが贈られた退役軍人用のゴルフ施設。その写真も添付した。実に格好よい使われ方では、ないだろうか。
なおラヒリはインド人のプロ。米ツアーの前は、アジア各地を転戦していた。今回全米プロ、5位の好成績。秋のプレジデンツカップ出場の、チャンスが見えてきた。
(Aug.17.2015)