初優勝リングマースに見た、足許の安定

優勝する様なトッププロは、スイング中の足の動きが、頗る静か。シューズの中で、10本の指を含む、足底が地面をしっかり、捉まえていることが分かる。

優勝する様なトッププロは、スイング中の足の動きが、頗る静か。シューズの中で、10本の指を含む、足底が地面をしっかり、捉まえていることが分かる。

私は時に、一日に2つのコースをラウンドして来た。米国ならファイアストンで朝7時スタート。11時終了と同時に、チーズバーガーと清涼飲料水を手に2時間のドライブ。午後はコロンバスの、ミュアフィールド・ビレッジGC。

英国ではウエールズとイングランドで、2つのコースの組み合わせ。そして翌朝、成田行きの便に乗る前、もう一つのコースで18ホール回る。米は乗用カートに頼れるが、英はまず担いでの歩き。ラウンドしながらの、写真撮影が目的だけに、歩く距離は長い。頼りは足許。幸運なことに私は、長いことFJのシューズを使用してきた。

先々週のメモリアル。帝王ニクラスのトーナメントで、米ツアー初優勝を飾った、スウェーデン人、デビッド・リングマス。彼の足許に注目させられた。

ロリ・マキロイたち若い世代は、カラフルなスポーティタイプが目立つ。そんな時代にリングマスのシューズは、違って見えた。昔スタイルの黒。「これなら当然、靴底も昔風」と直感。訳を知りたくなり、早速アクシネットジャパンに問い合わせた。答えてくれたのは、JFフットジョイの斎藤政則部長。

「それは、今後展開予定のJFフットジョイ。そのアイコンシリーズのプロトタイプです」。

斎藤部長の話に依ると「使用モデルに関しては、プロの自由選択に任せます。制約は一切設けていません」そうだ。

「プロはスイング時の安定性。履いた時のソフト感などでセレクトします」。

その中で、プロ個人の個性と好みが、生かされることになる。

476293138_David_Lingmerth_503x720_72_RGB 「その一つがクラシックなタイプ(FJアイコン)。次いでアダム・スコットが愛用のドライジョイタイプ。さらにハンター・メーハン達のスポーティタイプ。大別するとこの三つですね」と、前出の斎藤さん。

クラブ、ボールからシューズ、グローブ迄、トップメーカーが、重視するのはR&D。リサーチと開発。プロアマを問わず、そこから上がる膨大なデータを基に、求められる性能とデザイン性を重視して、商品ラインの開発を進めて行きます」。

今週18日に開幕する全米オープン。ここシアトル郊外のチェンバース湾コースは、恰もスコットランドの、デューンズを彷彿させる、開場8年の新設。全体に大きなうねりが多いことで、見応えのある戦いが、期待される。

その全米オープンでも、使用用具の比率が発表される。その中でタイトリストのボールとともに、FJのシューズとグローブは圧倒的。例年6割から7割に近い使用率を占める。

日本も含め、世界には実に多くのメーカーが鎬を削る。その中で約三分の二が使用する用具。それもメジャーの舞台で。これだけ市場の信頼を得る。それを支えるのは、紛れもなく集める情報の豊かさと、それに裏打ちされた、開発力と言える。

ナショナル選手権の開催目的。それは優秀な競技者を育てる。一方でメーカー同士の競争力を、高めること。それを教えてくれるデータだ。

(June.15.2015)

誇りがあるなら、タイガーは引退すべきだ

 85を叩いたことで、第3ラウンドの順位は、奇数の71位。1997年のプロ入り以来、朝一番での独りラウンドを、初めて体験した(coutesy of The Memorial Tournament)

85を叩いたことで、第3ラウンドの順位は、奇数の71位。1997年のプロ入り以来、朝一番での独りラウンドを、初めて体験した(coutesy of The Memorial Tournament)

僅か5ヶ月の間に、自己ワーストを二度も書き換える。前回は82。並みのプロではない。天下のタイガー・ウッズだ。

メモリアルの土曜日。さらに悪い85を打った。ニクラスがホストを務めるこの競技。タイガーは過去5度優勝している。得意中の得意なコース。そこで自己最悪スコアを更新。それも2つのダブルに加え、18番ではquadrupleの8。5つのボギーも多過ぎる。だが一ホールで8を叩く。これは、既にタイガーのゴルフではない。他に置き換えれば、かつての王、長嶋が、打率一割台に低迷したに似る。ここ迄劣化したら、残された道は唯一つ。それはツアーから引退すること。その場合39歳の年齢は関係ない。

今年の全英オープンは、セントアンドルーズのオールドコース。16世紀からゴルフがプレーされたと、伝えられる。いわゆるゴルフの聖地。タイガーのメジャータイトル数は14。そのうちの3つは全英オープンでのもの。それらは2000年、05年、06年の連覇もある。然も2000年と05年は、共にオールドコースだった。タイガーにとっては、得意であり思い出も、タップリ詰まったコース。そこを最後の舞台にする。

既に離婚している。とは言え、2人の子供を儲けた、スウェーデン人の奥さんエリン。彼女と出会ったのもこの頃オールドコース。エレンはパーネビック家族の、ベビーシッターとして一週間を過ごす。そこでで口説き始めたもの。パーネビックの3人の娘は、既に金髪を靡かせる、美しい女性に成長している。

時の流れは早い。その間にタイガーは、とんでもない女狂いが暴露される。トーナメントの合間に、全米の女性百人の尻を追っ掛ける狂乱。ニューヨークで、そしてベガスで。彼のように自家用ジェット機があれば、広大な米大陸の移動も簡単。我々が都内を、タクシーで異動するに等しいこと。

セラピストの世話になり、トーナメント出場を自粛。エリンとは離婚し、推定数百億円の慰謝料を払う羽目に。それでも好成績が続けば、ツアープロだから何とかなる。

スキャンダルが発覚したのは、2009年11月末。感謝祭の週末だった。それから成績は急降下。更新目前だった、米ツアーの最多勝記録〔82勝)も79で足踏みしたまま。かつて自分の定位置だった世界ランク一位。それも172位まで落ちた。

タイガーを幼児の頃から知るスティーブ・クック。私の編集担当プロが、次のように説明する。

「プロとしての年齢が、実年齢より大幅に老けたことは否定しない。特に技術的に」と前置き。「醜聞に見舞われたことで、性格が頑なになった。技術とともに、精神面での引き出しの中身が、急速に少なくなった原因は、そこに在る」。

ジャック・ニクラスはいま75歳。メモリアルのホスト。世界中でのコース設計。そして社会奉仕。多忙な日々を過ごしている。

十数年前、仕事の打ち合わせでロサンゼルスで会った。その時、開口一番「デューク、私はもうマスターズには出場しない。数週前オーガスタで80を打った。それも白ティから。如何なる状況でも、80を打つゴルフは、観客に見せるものではない」。それが理由であり、帝王ニクラスの誇りだった。

タイガーは、ジョーンズ、ニクラスに並び、過去百年の三強の一人。その男が、5ヶ月の間に、80台を二度も叩いた。身を引くに、充分な決断と言える。

(June.8th.2015)

 

お嬢さん方、マキロイは売り切れました

 マキロイは常に、ニクラスに目を掛けられている。昨年のライダーカップから(Photo coutesy of Nicklaus Companies)

マキロイは常に、ニクラスに目を掛けられている。昨年のライダーカップから(Photo coutesy of Nicklaus Companies)

Sorry Ladies,Rory McIlroy is officially off the market。

英語の表現は、何時ものことながら微笑ましい。郷里でのアイルランド・オープン。2019年には全英オープンが、アイルランドで開催される。その前哨戦とも言えるトーナメント。運営責任はマキロイ基金。

メジャー四勝の26歳は、世の中での役割が、どんどん多く大きくなる。そして今季も前半絶好調。世界マッチプレー選手権。そしてWells Fargoで、共に圧勝。ことに後者の3日目、難コース、クエールフォローで61の、ビッグスコアを叩き出している。

BMWPGAは欧州ツアーの旗艦トーナメント。舞台は本部のある、ロンドン郊外ウエントワース。一年前マキロイはここで、最終日大捲りの優勝。その直後キャロライン・ウオズニアッキとの、結婚式の招待状を発送している。尤もその結婚は破局する。だがめげることなく、昨夏後半2つのメジャータイトルを連取した。

そのウエントワースで今年は36ホール落ち。その時のコメントは「ガス欠の状態で、走り続けすぎた」。確かにそうだった。ところが先週のアイルランド・オープンでは、第一ラウンド、バーディ無しの80を叩く。僅か数週前61を叩き出した、同一競技者が、9オーバーと乱れた。マキロイと言えども、生身の体。ゴルフの持つ面白みが伝わる。

会場ロイヤル・カウンティダウンはこの日も雨。然し長靴傘姿の地元ギャラリーが、競技を去るマキロイに、大きな拍手を贈っている。そんなマキロイに「お嬢さん方、彼は売り切れましたよ」との標題が出る。雨の上がった最終日。マキロイが長い金髪の女性と、手を握ってコースに現れたためだ。

「新しい友達です。会って3年になります。彼女は米人。ゴルフはしませんがゴルフへの理解はあります。いまボクは非常に幸せです」とマキロイ。

彼女の名前はエリカ・ストール。マキロイより3つ上の29歳。勤務先は米フロリダの、米プロゴルフ協会。言わば職場恋愛みたいなもの。それにしてもナイキ他との契約金。そして賞金を合わせれば、年間数十億円の稼ぎ。このまますんなり進行すれば、エリカは、大変な玉の輿になる可能性。

近付きの要因の一つは、マキロイが購入した、ヨットハーバー付きの豪邸が、米プロゴルフ協会の本部に近い事。そんなことで半年以上も前に、交際は始まっていたようだ。

それにしても、マキロイの2試合連続しての36ホール落ち。それでも最後を、大きな話題で締め括る。大した役者であることは間違いない。

とは言え「ガス欠状態で、走り続け過ぎたこの2週。それをこの先、何処まで早く回復できるか。

今季2つ目のメジャー競技、全米オープンは再来週だ。

(June.1st.2015)

英樹、メモリアルV2へ、メディアDayこなす

メディアDayの記者会見で、てきぱきと答える英樹(All photos courtesy of The Memorial Tournament)

メディアDayの記者会見で、てきぱきと答える英樹(All photos courtesy of The Memorial Tournament)

前年の優勝者が列席しての、メデイアDay。米ツアーでは、男女とも長いこと、行われている。

似たような催しを、日本に探すと、その一つは大相撲の御免祝い。ゴルフのメディアDayは、そこに前年の優勝者が顔を出す。その分賑やかになる。

早いもので、松山英樹がメモリアルで、米ツアー初優勝して一年が経つ。先週火曜19日、オハイオ州コロンバス郊外のミュアフィールド・ビッレッジGCに、多くの報道陣を招き、そのメディアDayが催された。

日本人の米ツアー優勝は、2004年の丸山茂樹以来のこと。それだけに、片山総領事をはじめ、コロンバス日米協会の関係者も駆け付けるなど、大いに盛り上がった。

トーナメント・ディレクター、ダン・サリバンの司会でスタート。多くの質問が飛ぶ中、英樹は「ここは他に比べ、フェアウエイが少し広いように受け止める。一方でここはグリーンを狙うショットの、高い精度が求められる。それはボクの長所。それを活かして、ミスター・ニクラスの前で、また好成績を上げたい」と強い抱負を語った。

一年前、ニクラスからトロフイを渡された英樹。この時の感激が、19日蘇った

一年前、ニクラスからトロフイを渡された英樹。この時の感激が、19日蘇った

メモリアルは今年が、四十回目の大会になる。競技者として絶頂期にあった35歳の時。ニクラスはこのツアー競技を立ち上げた。目的は世界のゴルフ史を飾った功労者を顕彰。それらをコース一角の、記念敷地に残すことだった。

トーナメント名は功労者への記念と、米の戦没者記念日(Memorial Day)双方を意味するモノ。そのため期日も、この時期が選ばれた。一方のコースの名前は、彼が全英オープン初優勝した、スコットランドのミュアフィールドから拝領。第一回目の顕彰者は、言わずもがな、マスターズの創始者ボビー・ジョーンズだった。

この時競技は、アーウインとロジャー・モルトビイのプレーオフ。実力的に、アーウインが押していた。処がギャラリー席に曲がったはずのボールが、小さな看板に当たり、グリーンに載るハプニング。これで決着が就いた。

ちなみにモルトビイは、NBCのラウンド解説者として、ジョニー・ミラーと絶妙のコンビが、20年以上人気を博している。

如何にも米ツアーらしい、軽妙闊達な記者会見

如何にも米ツアーらしい、軽妙闊達な記者会見

そして第二回目の77年と84年。創始者とホストとプロ。三足の草鞋を履きながら、二度の優勝を成し遂げている。そのニクラスが目標としたもの。それは「北のマスターズ」だった。深南部ジョージアで開催されるマスターズ。それに匹敵する格調の高い招待競技。

そのメモリアル。英樹の連続優勝は当然の期待。一方でタイガー、ミケルそん達ベテラン。そしてザ・プレーヤーズの派手な優勝で、一躍脚光を浴びたファウラーも、出場をコミットしている。英樹の連覇は、決して生易しくない。

さて40年前、ジョーンズで始まったメモリアル・トーナメント。今年の顕彰者Honoreeは、Sirの称号を持つニック・ファルド。

彼はマスターズと全英オープンで、それぞれ3度優勝。引退後は米CBSとゴルフチャンネルの解説。一方で将来プロのレベルでのゴルフを目指す、12歳から21歳までを対象にした、ファルドシリーズ。これを欧州、アジアを中心に世界で展開している。

そのセレモニーは、水曜午後にある。このとき英樹は、是非ファルドの話を拝聴したらよい。競技者としてだけでなく、人間としての、引き出しを大きくするためにも。

(May.25.2015)

全米学生まで、テレビ放送される、日本との違い

これは2012年、地区予選を優勝で突破した時の写真。左がDirector of GolfのPuggy Blackmon。この様なスコアボードの前で、競技者も観戦者も、一喜一憂する。今週のNCAA全国大会のスコアボードは、この十倍以上大きい

これは2012年、地区予選を優勝で突破した時の写真。左がDirector of GolfのPuggy Blackmon。この様なスコアボードの前で、競技者も観戦者も、一喜一憂する。今週のNCAA全国大会のスコアボードは、この十倍以上大きい

四月のマスターズで、一躍歴史を作ったジョーダン・スピース。未だ21歳。数年前まで彼は、テキサス大の学生だった。タイガーの稼ぎに影響され、最近は中退し、プロ転向する数が増えている。

ただしタイガーやジョーダンは例外。多くは四年間大学で学び、その後でQSに挑む。奨学金もある。アマチュアのタイトルを,積み重ねることも、プロ転向後の将来に,役立つからだ。

そんな学生にとって、年間最大の競技。それが通称NCAAの全米学生選手権。これは「明日のスターの宝庫」。遠く1980年。はじめて取材した時。この時の主役はカプルス、オメーラ、ハル・サットン。ジョン・クック、86年の全米プロを獲ったトウエイたち。まさにきら星だった。

その全米学生が始まる。場所はフロリダ州コンセッションGC。今週が女子。それに続き、来週男子が行われる。優勝争いへの興味。それ以上のもの。それは〔日本では相手にされない)学生の競技が、テレビで放送されることだ。

日に焼けた脚に、白い短パンがよく似合う

日に焼けた脚に、白い短パンがよく似合う

大学が大都市に集中している日本と違い、米の大学は全米50州に分散している。従ってその分、地域対抗意識が強く、それが大学スポーツを、収益的にも巨大なビジネスに押し上げている。その中でもフットボールとバスケ。この二つはプロに匹敵する人気。

ゴルフは競技の形態からして、そこ迄の熱狂は呼べない。とは言え各大学の、中心的な部活。それをゴルフチャンネルが、しっかり放送する。それがプロツアー人気の、下支えになっているのだ。勿論NCAAだけではない。全米アマチュア選手権。これは昨年まではNBC。今年からはFOXが放送する。

翻って日本の、アマチュアゴルフとテレビの関係。むかし石川遼が15歳だった時、一度だけフジテレビが放送した。ただしそれはゴルフと言うより、アイドル追っ掛け番組。それでも日本ゴルフ協会としては、これを気にアマチュアのゴルフ放送に、乗り出すべきだったが、そんな高尚な考えは、持ち合わせていなかった。

それ以前の問題。日本では大学のトーナメントに、応援さえ許可しない。数住人の部員。その中で選手になれるのは一握。だが練習は一年間。全員で続ける。その自分達の代表を、コースで応援することさえ「NO」。それが遅れた日本の実情なのだ。

日本の早稲田に似た色。これがサウスカロライナ大のスクールカラー。各校地域の歴史に関連する色を、巧みに使用している

日本の早稲田に似た色。これがサウスカロライナ大のスクールカラー。 各校地域の歴史に関連する色を、巧みに使用している

それより何より日本の大学ゴルフ。昨年はスコアの改ざんまで起こっている。「そんなことも応援が入ることで,必然的に防げます」と大学の監督。テレビ放送されれば、それは不正防止にも、役立つことになる。

全米で1万7千コース。プロ(PGAオブAmerica)の数、約2万5千人。とは言えゴルフ産業を支えるのは,カネを払って遊ぶアマチュアの大衆。全米アマチュアと共にNCAAは、その頂点。それをテレビで観戦できたら楽しい。

昔のニクラスから、いまのスピースの活躍まで。この柔軟な発想があればこそなのだ。
(May.18.2015)

WGCマッチプレーの進化に拍手喝采

今年の海外ツアーを牽引する若い2人。マキロイ〔右)とスピース。「彼らはパーマー、ニクラスの宿敵関係になれるか?」米Global Golf Postの期待は大きく膨らむ

今年の海外ツアーを牽引する若い2人。マキロイ〔右)とスピース。「彼らはパーマー、ニクラスの宿敵関係になれるか?」米Global Golf Postの期待は大きく膨らむ

「マッチプレーは、テレビ時代の現代には不向き」。これが定説だった。

かつて日本でも、プロマッチプレー選手権が、実施されていた。だが最終日は、決勝と3位決定戦の2試合だけ。一戦ごとの勝ち上がりだから、テレビ桟敷が期待する、顔触れがなかなか揃わない。そんなことで、何時しか消えた。

1999年に始まった、WGCのマッチプレー選手権。2003、2004年に、タイガーが連覇する迄は、ジェフ・マガートや、ケビン・サザーランド達。スターとは言えない、優勝者が続いた。

それ迄のアクセンチュアから、キャデラックに代わった今回。競技のフォーマットを、大きく変えた。かつて64人の勝ち上がり戦は、一つ落とせば、その競技者は、会場を後にした。

それに対し、今回からは64人全員が、3試合の予選ラウンドをする。そのため水曜日から熱狂。ブラッドレーとヒメネスの口論。それがテレビ画面に捉えられる。そんなハプニングも、ファンの興味を高めた。

その結果で、上位16人が、勝ち上がり戦(ノックアウト戦)に突入。その初っ端で、松山英樹が世界ランク一位のマキロイと激突したことで、日本でも特に注目された。

ただし此処で特筆したいこと。それは松山が、マキロイに子供扱いされた結果ではない。フォーマットを此処まで進化させ、ショーアップした、米ツアーの能力。それに対し拍手を、送りたいことだ。

タイガー、ミケルソンガ欠場した今回、金看板はマキロイとスピース。後者は英国のベテラン、ウエストウッドに敗れ決勝進出を逃した。一方で松山を下したマキロイ。彼は準々決勝でも、追い上げて延長戦に持ち込む粘り。大本命の活躍は、観客そしてテレビ桟敷の関心を、最終日まで繋いだ。

これがフォーマット変更の、最大の進化部分。ショーとしてのスポーツは、客に見て貰ってこそのもの。さらに幾つかの、客観的要素が加わった。会場のハーディングパークは、サンフランシスコ。金門橋からも近い。英国のローズ達は、ケーブルカーに乗り、名所フィッシャーマンズワーフを観光。

ジョーダンを破りながらも、最終日まで残れなかったウエストウッド。彼には更に素敵なハプニングが待っていた。シスコからベガスはひとっ飛び。そこで日曜日パッキャオvsメイウエザーのタイトルマッチ。この切符を持っていたマキロイ。だが時間的に観戦不可能に。そこで代わってベガスへ飛んだのがウエストウッド。当然のことながら、チャーター機。

マキロイは優勝杯を。英国の先輩は、ベガスの興奮を。それぞれに最大限、満喫した。

日本とは比較しようないこと。とは言え一つのイベントに、他のショーが絡む。それで話題性が、二倍にも三倍にもなる。実に巧みなフォーマットの進化だった。人間の知恵とは、それにしても大したものである。
(May 11.2015)

全米オープン、Daily feeコースへの転換期

 シアトルが本拠のNFLチーム、シーホークス。昨年のスーパーボウルを制した。その時のトロフィーと、今年誰かが手にする、全米オープンの優勝杯が並ぶ、チェンバース湾コース。スポーツ愛好者にとっては豪華だ(courtey of USGA)

シアトルが本拠のNFLチーム、シーホークス。昨年のスーパーボウルを制した。その時のトロフィーと、今年誰かが手にする、全米オープンの優勝杯が並ぶ、チェンバース湾コース。スポーツ愛好者にとっては豪華だ(courtey of USGA)

連休が明ければ、ゴルフ愛好者の関心は、6月の全米オープン。

今年の会場は、ワシントン州シアトル郊外の、チェンバース湾コース。期日は18日からの4日間。多くの日本人には、聞き慣れない名前。それもそのはず。数年前にオープンした新設コース。設計者は名手、トレント・ジョーンズ・ジュニア。

そればかりか、かつての砂利採掘場を、廃物利用したゴルフ場。従って海に面した、なだらかな丘陵地。その素材を、米国特有のスタジアム型コースとして、誕生させたもの。さらに特筆されること。それは所有運営が市。従って誰でもプレー可能な公営の施設。それを昨今、米では日銭で稼ぐ施設、Daily feeコースと表現する。

全米オープンが産声を上げたのは、19世紀の末1895年。当初はボストン、ニューヨークからシカゴ迄。伝統あるカントリークラブを巡回していた。一大変化が起きたのが2002年。それ迄の仕来りを破り、ニューヨークの州営コース、ベスページで開催されたのだ。

時あたかもタイガーの登場で、ゴルフの大衆化が、急速に進んでいた。ちなみにこの時の優勝者は、タイガーだった。

ドナルド・ロスやティリングハスト達の設計は素晴らしい。とは言え約一世紀前のコース。グリーンは砲台が多く、観客は爪先立ちが必要になる。チェンバース湾コースは、その辺りへの配慮が十分。観戦の邪魔になる、樹木は殆どなし。従ってより多くの観客が、ゆったり観戦できる。

全米オープン開催コースの、ラインアップは下記。

2016年 オークモントCC。2017年 Erin Hill GC。2018年シネコックヒルズ。2019年 ペブルビーチ。

この中でErin Hillsは、五大湖に面した北国ウイスコンシン州。これも新設のDaily feeコース。

この動きには、2つの目的がある。スタジアム型で、より多くの観客を収容する。もう一つは幾らでも距離を伸ばせること。数年前Erin Hillsでの全米アマチュア選手権。この時の全長は、約7500ヤードだった。その時USGAの関係者は「八千ヤードの時代にも、対応できる準備が必要」と本気で説明していた。

世界のゴルフは、いまそこまで急変している。それを支える新時代の表現。それがDaily feeコースなのだ。

歴史の長さは違うが、ペブルビーチも、言わばDaily feeコース。あそこの場合、プレー代金は五百ドル。それに百ドルのキャデイフィと、ほぼ同額のチップ。合計7百ドルが必要。

それでも天下の有名コース。そこでは繰り返し、全米オープンが開催されている。だから全米はおろか、世界中のゴルファーが憧れる。

ペブルビーチの値段の高さは、それだけではない。ペブルビーチは基本的に、ロッジの宿泊客を対象にしたゴルフ施設。その値段は、コースに面したスイートだと千二百ドルはする。「それでも「一年先まで、予約が埋まっている」と言う。

ちなみに全米一万八千ゴルフ場。その6割以上は、メンバーでなくとも、プレー出来るコース。いまそれを牽引しているのが
Daily feeのシステムなのだ。

(April.27.2015)

帝王のエースで、22人の孫の一人に脚光

ホールインワンのボールを、お爺ちゃんと一緒に持つ、緊張気味のスティービー

ホールインワンのボールを、お爺ちゃんと一緒に持つ、緊張気味のスティービー

ニクラスの口癖。それは「私の生涯最良の友は、亡き父チャーリーだった」。

こよなく家族を大切にする。その一つの現れが、子供、孫の多さ。いま孫の数は22人に達する。数が多いだけではない、時間がある時には、可能な限り複数の孫と、纏めて遊ぶ。

その22人にとって、大きな楽しみ。それは4月。マスターズ水曜午後の、名物パー3コンテストで、偉大なお爺ちゃんの、キャデイを出来ること。デソト池を一周する、パー3の9ホール。ここに鈴なりの観客が集まり、熱狂する。

主役は勿論、メジャー18勝のお爺ちゃん。とは言えキャデイも、お零れが頂戴できる。ただし孫の数は22人。順番は一度しか、巡ってこない。その様な状況で、孫の一人スティービーが、万馬券を引き当てた。其れがお爺ちゃんのホールインワン。観客からの祝福。報道カメラからの、写真撮影の注文。人生経験の短い、15歳高校生には、めまぐるし過ぎる、水曜午後だった。

パー3コンテストで使用したボール、グローブ、キャデイのゼッケンなど。これらは目下引く手あまた。世界ゴルフ殿堂か。其れともオハイオの、ニクラス記念館に落ち着くのか

パー3コンテストで使用したボール、グローブ、キャデイのゼッケンなど。これらは目下引く手あまた。世界ゴルフ殿堂か。其れともオハイオの、ニクラス記念館に落ち着くのか

スティービーの父親は、ニクラスの次男スティーブ。息子4人の中で、ただ一人ゴルフでなく、フットボールを選んだ。ただしプロのレベルには、到達できなかった。

そのスティーブに代わり、いまフットボールで脚光を浴びているのが、孫の一人ニック・オレアリー。長女ナンの息子は、何と196センチ、244ポンドの巨漢なのだ。フロリダ州立大フットボール部の、看板選手。

フロリダ州立大は、昨年、今年と連続して、全米学生一決定戦に進出。そのうち昨年は、加州パサディナでのローズボウル。この時は巨大な自家用ジェット機Air Bearで、一族郎党がフロリダから、大挙応援に駆け付けている。米大陸は東西約5千キロ。その距離を応援に行く。スケールのデッカイ話。

ニクラスの処は、このところ何しろお目出た続き。まず奥さんバーバラが、ボブ・ジョーンズ賞を贈られた。これはUSGA(米国ゴルフ協会)最高の名誉ある賞。ニクラス自身も受賞しており、夫婦でのダブル受賞は史上初。

追っ掛けるようにして、ニクラスが3月24日。議会金メダルを受け、午後3時から連邦議会でスピーチをしている。その何年も前に、大統領金メダルも受けている。

マスターズのチャンピオンズ・ディナー。中央の委員長を挟み、右にニクラス、プレーヤー。左にバッバを挟んでパーマー。今年のホストは、恒例前年(2014年)優勝の、バッバだった

マスターズのチャンピオンズ・ディナー。中央の委員長を挟み、右にニクラス、プレーヤー。左にバッバを挟んでパーマー。今年のホストは、恒例前年(2014年)優勝の、バッバだった

そして4月8日。マスターズのパー3コンテストで、達成したホールインワン。その時思いも掛けず、巨大な注目を浴びた22人孫の一人、15歳のスティービー。若い彼にとっては、恐らく盆と正月が一緒に来たような、目まぐるしさだったはず。其れでも祖父母(ニクラスとバーバラ)両親の躾の賜物。スティービーは非常に、落ち着いて対応していた。

これがニクラスが言う「生涯最良の友は、亡き父チャーリーだった」から、受け継がれている、帝王一家の伝統なのだ。

誰も彼も、真似のできることではないが、バーバラは5人の子供と、22人の孫をTeam Nicklausと呼ぶ。今回のパー3コンテストでの快挙。これも家族の幸運を、多くの人々に祝福される、モノだった。(April.20.2015)

子供達への、オーガスタの解放。今年も..

マスターズ直前の、オーガスタに集合した、ファイナリストたち。肌の色の違う子も堂々としている。彼を含め何人もの子が、ネクタイ上着を着用している。世界的なプライベートクラブ、オーガスタを訪れることは、それ程緊張することなのだ。後列中央が、オーガスタの委員長。下の写真は、各年齢の優勝者

マスターズ直前の、オーガスタに集合した、ファイナリストたち。肌の色の違う子も堂々としている。彼を含め何人もの子が、ネクタイ上着を着用している。世界的なプライベートクラブ、オーガスタを訪れることは、それ程緊張することなのだ。後列中央が、オーガスタの委員長。下の写真は、各年齢の優勝者

21歳スピースが、ぶっちぎった4日間。その陰で85歳パーマー。彼がパー3コンテストの舞台から降りた。早朝にも拘わらず、万余の観客を集めた、木曜朝の始球式。これも今年が最後になるはず。一つの時代の終焉。時代を築いた男への惜別。だが心配は無用。パーマーを後継する、若者は続いている。

Masters Weeksが、開幕する前日だから、5日のこと。全米各地の予選を勝ち抜いた子供達が、オーガスタ・ナショナルGCに、集まっていた。それがこの2枚の写真。昨年スタートした「ドライブ、チップ、パット」競技。この決勝戦。オーガスタ・ナショナルばかりか、USGA、PGAオブ・アメリカが協力しての、普及を目的とした仕掛け。

それより前に、大きな実績を創ったThe First Tee Program。この続編と思えばよい。それが「ドライブ、チップ、パット」。遠くへボールを飛ばし、狙ったところへ寄せる。そしてカップに沈める。ゴルフと言うより、子供の遊びの原点。

dcp15_1442_winners 然も新しい試みと、多くが感心させられる。ところが然に非ず。子供を中心とした初心者。彼らをゴルフへ引っ張り出す上で、この程度のこと、ずっと昔から、行われていたのだ。

私の記事に、繰り返し登場するルディ・デュラン。タイガーを4歳から10歳まで、指導した教え上手。彼は加州中部で、2つのゴルフ場を所有運営。其処を中心に実施している指導。それがドライブ、チップ、パットそのものなのだ。ただし順序は逆になる。

ルディは近所の子供を、まず練習グリーンへ集める。其処でボールとパターを与え、3メートルの距離を、2パットで収める遊びをさせる。子供たちは、直ぐに憶える。それが出来た子には、名刺サイズの、会員証を渡す。全員が貰える。

名馬の産地ケンタッキー州を代表する牧草ブルーグラス。子供達は、放課後ここで、夕食時までタップリ遊ぶ

名馬の産地ケンタッキー州を代表する牧草ブルーグラス。子供達は、放課後ここで、夕食時までタップリ遊ぶ

続いてグリーンの外からチップし、それを1パットで収める遊び。これも簡単にクリアする。その子には異なるカードを渡す。色がオレンジに変わり、このカードの所有者は、練習場のボールが、無料になるなど、上達への環境が、徐々に整えられる。

そのカードの色が、緑に変わる頃。子供達はコースへ出るのが、待ちきれなくなる。

その一つの形が、マスターズ直前のオーガスタで行われた「ドライブ、チップ、パット」のファイナルだった。これはいまや、全米規模で実施されている。

Huntertown Blue Team - SNAG After-School. It's Masters Week! 1 別の2枚の写真。これはダービーで有名な、ケンタッキーの光景。草は芝でなく牧草。奧にサッカーか、アメラグのゴールが見える。寒い冬が去れば、子供達は放って於いても屋外へ飛び出す。その中に棒切れで、小さなバールを打つ遊びが加わる。取り立ててゴルフの格好をさせない周囲。それが何とも、心を豊かにする。

この写真の送り主は、結婚前Myra Van Hoosでツアー活動。その後母校ケンタッキー大監督として、多くの後進を育ててきた。

マスターズが終われば、春は北米大陸全域に広がる。其処ではケンタッキーダービー、インディ500。そしてニクラス主催の、メモリアル・トーナメント等、スポーツイベントが続く。

パーマーは去ったが、ゴルフ界の後継人材は、この様な形で、次々育っている。ルディやMyraの地道な指導。そして小中学生に、オーガスタ・ナショナルを開放する動き迄。日本が本気で、見習うべき部分だ。

(April.13.2015)

日本企業の、海外競技への関心と背景

 左から3人目が、男女合わせ最多88勝のキャシー・ウイットワース。5人目がソレンスタム。10人目ほぼ中央が、女子プロゴルフの歴史を、劇的に書き換えたナンシー・ロペス。右端のブラッドリーは、1986年四大タイトルのうちの、三つを獲得した(All photos made by Gabriel Roux)

左から3人目が、男女合わせ最多88勝のキャシー・ウイットワース。5人目がソレンスタム。10人目ほぼ中央が、女子プロゴルフの歴史を、劇的に書き換えたナンシー・ロペス。右端のブラッドリーは、1986年四大タイトルのうちの、三つを獲得した(All photos made by Gabriel Roux)

1972年に産声を上げた時の名称。それはダイナ・ショア招待。カネを出したのはコルゲート。デビッド・フォスターが経営トップだった。狙いは女子のマスターズ。選んだ舞台が、加州の人気避寒地、パームスプリングス。時代の先取り。夢があった。

その後ナビスコが、スポンサーシップを受け継ぐ。そして今回名乗りを上げたのが、日本企業ANA。

英語のHonorの意味は、言うまでもなく名誉。戦いでの戦死から、スポーツ競技での勝利まで。人間には,常にこの言葉が付いて回る。第一回のダイナ・ショア以来、半世紀近い歴史。其処で数多くの勝者が誕生した。

新しい冠スポンサーを迎えた、女子のメジャー第一戦は、ANA inspiration。洒落たネーミングだ。トーナメントの週初め。歴代優勝者22人が集合しての、ディナーが催されている。昔風の表現をすると晩餐会。ここに招待された22人は、まさに(招待される名誉)の持ち主ばかり。

_HRC9528長く取材している私には、懐かしい顔の勢揃い。キャシー・ウイットワース、サンドラ・パーマー、ドナ・カポーニ。さらに数世代若返ってナンシー・ロペスから、アニカ・ソレンスタム迄。まさに女子ゴルフの歴史を、凝縮する華やかさだった。

ANAの投資目的は、タイトルスポンサーだけではない。さらに大きなインパクト。それは米女子プロの、公式エアラインとしての契約だ。これだけの歴史を、日本企業ANAは掌中に収めた。買い物としては、決して高いモノではない。

米のプロスポーツは、ビジネス面で凌ぎを削る。それにフットボール、バスケなど、カレッジの人気スポーツが肉薄する。その過激な競争の中。残念ながらゴルフの女子プロは、ビジネスの規模を、大きく落としている。

RUX_7626捨てる神あれば、拾う神があるモノ。その女子プロゴルフ。いまアジアでしぶとく生き残っている。シーズン初め。そして秋。米女子プロのご一行は、年に二度広い太平洋を往復する。ANAはそれを見越し、オフィシャル航空としての契約を結んだ。昨年11月のことだった。

そして先週。新しい看板でのトーナメントと、それに先立つ晩餐会が行われたもの。関係者の印象は頗る良好。「有り難うANA」の声があちこちで。一方で次のような声が、小さくなかった。

「いまや日本企業は、国内プロゴルフへの関心を失い、その分海外イベントに、カネを出す。宣伝効果として、国内のイベントは、投資するに値しないからです」。

最大の理由。それは社会から,見捨てられ続ける粗末さ。一つの現れが、観客とテレビ視聴率の、二重の落ち込み。それを産んでいるのは、プロの能力だけではない。中に入る代理店の多過ぎる取り分。従って「そんなところへカネを出せるか」と言う反発にも繋がるのだ。

スポーツショーとしての顕示。それを社会に還元させる考え。米女子プロの、今季メジャー第一戦が見せた、冠スポンサーとしての、日本企業の姿勢。それは日本男子プロへの、警鐘そのものだった。

晩餐会に集まった22人の歴代勝者は、全員が歴史の先頭を走ってきた。髪が白くなっても、彼女達が樹立した名誉は、際立っていた。

(April.06.2015)